映像メモ
たしか宣伝文句のなかで「無関心であることの罪」のような文言を見かけていたように思う。そこでハンナ・アーレントのかの有名なフレーズである「悪の凡庸さ the banality of evil」が頭に浮かんだ。『関心領域』はたしかにそのような問題系に連なる映画では…
ウィム・ウェンダースは2年前のレトロスペクティヴで観て気に入ったということもあり、公開されてからずいぶん経ってしまったけれど、やっと『Perfect Days』を観てきた。 よくもわるくもウェンダースという感じ。「ウェンダースは距離を撮る映画監督」、し…
2010年代後半のMe Too運動は、社会の空気を変えた。沈黙することを余儀なくされてきた声がついに語り出し、耳を傾けられるようになった。それはおそらく、ソーシャルメディアの隆盛と表裏一体の出来事である。被害者たちが声を上げ、広げ、つなげていくため…
というわけでかなり適当に最後まで見た。見ながら思ったのは、これは『逆シャア』を遡及的に説明する物語ではないかということ。 『逆シャア』の大きな謎は、地球に落下しそうになったアクシズを押し返そうとするアムロにほかの機体も加わっていったとき、な…
まったく前情報なしで観た結果、「そうか、そういう映画なのか」と思った。宮城リョータの物語としての山王戦。 たしかに漫画版は桜木花道が主人公であり、彼の成長物語だった。赤髪の地毛のわりに内向的な性格の不良である桜木は、惚れっぽいがフラれてばか…
『RRR』を観る。これは危険なエンターテイメント映画だ。 1920年代の英国統治下のインドが舞台。主人公となるのは二人の男。ひとりは、インド総督の妻の気まぐれで奪われた妹エッリを取り戻そうとするゴーント族のビーム。もうひとりは、英国統治下のインド…
あまり期待もせず、あまり前情報も入れず観たが、とてもよい映画だった。どこかのシーンがとびぬけてよいわけでもないし、何か突出したものがあるわけではない。淡々と進んでいく家族の物語だ。にもかかわらず、観終わったあと、しみじみと「よい映画を観た…
大真面目に作った壮大なB級映画と言いたくなる出来だった、『エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス』は。「ようこそ最先端のカオスへ」というポスターの宣伝文句は、良くも悪くも、的を射ている。物語内容も、ストーリー展開も、映像表現も、…
ひたすら熱く、ひたすら激しい。ここまで真っすぐな物語を見せつけられると、白けそうになるところだけれど、そうした皮肉さまでをも青白く燃えあがらせるほどの、ど真ん中ストレートの物語。 それはもしかすると、若さゆえの純真さなのかもしれない。 しか…
見る前は3時間20分は長いだろうと思ったし、1時間ぐらいたったところで「まだあと2時間以上あるのか」と感じたけれど、なんだかんだで最後まで惹きつけられて、否応なく感動させられてしまった。強い映画だ。 とはいえ、物語としてはオーソドックス。身分違…
3時間20分は長い。映像の美しさは素晴らしいと思うし、それを最大限生かした自然描写——森の木々、海の生物——には目を見張るものがある。しかし、ストーリーはまったく古典的な復讐劇と家族愛の物語であり、ここまでの装置を使ってそこまでオーソドックスなお…
『閃光のハサウェイ』をAmazon Primeで視聴。 ガンダムはテロをめぐる物語でもある、という言い方は、テロが何かを定義することを求める。テロは字義どおりには恐怖の意味であり、テロは恐怖を手段とした目的の遂行である。恐怖という手段は、物理的には、恐…
『水星の魔女』12話を視聴。 ジャンルとしての連続性を保証するのは何なのかを考えてしまう。 ガンダム・シリーズのキーとなるのは、当然ながら、ガンダムだ。しかしそれは機体のことなのか、それとも、パイロットのことなのか。機体のスペックのことなのか…
よく出来ている。次が気になって見てしまう。しかし、これがガンダムかと言われると、違和感がないでもない。 ファーストから、ガンダムは子どもたちの物語ではある。理不尽な(現実主義的な、日和見的な、割り切った)大人たちにたいする、純真な(理想主義…
あまり何も考えずに、前情報を入れずに見ていて、最後のクレジットで安彦良和が監督であったことを知り、いろいろと腑に落ちた。 これは戦争時代のなかの厭戦の物語だ。兵士たちによる戦闘が、市井の人々の生活、とくに、戦争の暴力的な力によって親を奪われ…
20221114@Cinezart エンタメ映画としてはよくできていると思う。2時間を飽きずに見させてくれるし、最後の20分での盛り上がりも申し分ない。きちんと感動させてくれる。商品としての出来は申し分ない。 『風の谷のナウシカ』と『もののけ姫』の物語をミック…
村上春樹の同名の短編を原案とする濱口隆介の『ドライブ・マイ・カー』は、生き残ってしまった遺族の後悔、相手を見殺しにしてしまった消極的殺人者の罪悪感を基調とする物語であり、妻を亡くした夫が、母を亡くした娘が、自動車という閉鎖空間のなかで、過…
@シネ・ギャラリー ウィム・ウェンダース・レトロスペクティブで6作品をまとめてみた。『都会のアリス』(1974)、『まわり道』(1975)、『さすらい』(1976)、『アメリカの友人』(1977)、『パリ、テキサス』(1984)、『ベルリン・天使の詩』(1987)。…
プーチンによるウクライナ「侵攻・侵略 invasion」が進行するなか、『シチリアを征服したクマ王国の物語 La Fameuse Invasion de la Sicile par les ours』というタイトルは不吉に響く。邦訳は「征服」だが、原語は「侵攻・侵略 Invasion」。直訳すれば、「…
20220122@シネ・ギャラリー ラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は観る者の肉体を内側から揺さぶる。有無をいわせぬ映像の迫力がある。頭では納得していなくとも、押し切られてしまう。だから、物語のなかで突如として荒唐無稽にミュ…
20220115@シネ・ギャラリー ブリュノ・デュモンの『ジャンヌ』は、メタルバンドのPV的な前作『ジャネット』とは大きく異なり、ずっと普通の映画になっている。歌と語りが交替するミュージカル的な前作では、言葉は詩句に凝縮されていた。論理を超越する祈り…
20220110@シネ・ギャラリー 2時間近くにおよぶメタルのPV。そんな雑な感想を書きつけて見たくなるほど、奇妙な映画だ。ジャンヌ・ダルクがジャンヌ・ダルクになる前の物語を、ブリュノ・デュモンは『ジャネット』で描き出していくのだけれど、服装であると…
長い。274分に及ぶこのドキュメンタリーを見てそのような印象を持たない者はいないのではないか。もちろん、この長大さを「長すぎる」とネガティヴに捉えるか、「長いにもかかわらず」と留保をつけるか、「この長さだからこそ」とポジティヴに捉えるかは、人…
10人ほどのブックセラーの群像劇という感じ。ただ、ブックセラーといっても、基本的に稀覯本を扱う人々であり、一般の本屋を期待していたので、すこし裏切られた気分。 10‐15分ほどの短いシークエンスをつないだ作りで、アテンションスパンが短くなってしま…
@20210601 CineCity Zart いい映画だ。自然の映像が美しい。荒れ狂う波、広大な砂漠、遠景の山脈。それから作業場の機会の崇高さ。アマゾンの配送センター、掘削場のようなところ、バーガーレストランの調理場。 ファーンという女性を軸に物語は進んでいく。…
20200505@くものうえ世界演劇祭 2時間ほどのキリル・セレブレンニコフの長編映画『The Student』(原題:Ученик)は何かについての作品なのだろうか。大澤真幸のプレトークによれば、「信じること」をめぐる映画であるという。母子家庭の高校生男子ヴェーニ…
20200504@くものうえ世界演劇祭 ほんの1時間ほどのオリヴィエ・ピィの『愛が勝つおはなし』は、ピイが長年取り組んでいるグリム童話シリーズのひとつ、その下敷きとなるのは象徴主義劇作家メーテルリンクがその処女作に選んだのと同じ「マレーヌ姫」で、波乱…
20200506@くものうえせかい演劇祭 70分ほどのドキュメンタリー映画『Utopia.doc』のなかでクリスティアヌ・ジャタヒーは「わたしたちは同じ夢をともに夢見ているのか」という問いをたえず投げかける。その問いに応えるように、移住と定住をめぐるオーラルヒ…
20200503@くものうえせかい演劇祭 100分近くにおよぶ宮城聰演出のソポクレス『アンティゴネ』の2017年アヴィンニョン演劇祭のときの公演映像が描き出すのは、徹頭徹尾、死者の物語にほかならない。なるほど、ソホクレスの登場人物たちは生者であるし、舞台…
20200503@ふじのくにせかい演劇祭 8分と少しのオマール・ポラスの映像は、記憶と回想の絵物語になっている。東日本大震災直後の演劇祭のために訪れてくれた静岡に捧げられオマージュであると同時に、出奔した祖国コロンビアへの想像的な帰還であり、自由の…