読書日記
ロールズについての新書(玉手慎太郎『ジョン・ロールズ――誰もが「生きづらくない社会」へ』講談社現代新書)を読む。ロールズの思想全般を扱ったものではなく、彼の主著『正義論』にのみ的を絞った解説本で、新書としては薄い部類に入るだろう。わずか120頁…
魔女絵には、若き美女と、醜い老婆の、ふたつの系譜があるという指摘にまずハッとさせられるが、読み進むほどに、はたして両者を「魔女」というワードでくくることが妥当なのだろうかという気もしてくる。本書は西洋美術における魔女表象を、100頁ほどのコン…
あなたはもう、じゅうぶん知っている。私も知っている。欠けているのは知識ではない。私たちに欠けているのは、知っていることを理解し、結論を導き出す勇気だ。(11頁) 旅行記とノンフィクションと文芸批評のフュージョン。1932年生まれのスウェーデン作家…
「若い鳥たちは上手にさえずることを夢見ながら最初の冬を過ごす(実際、眠っているあいだに「練習」していることが研究でわかっている)。」(171頁) 原語タイトルは Nautre Anatomy で、「自然界」という訳語は本書のカバーするトピックにうまくマッチし…
読んだのは数か月前。何か書き留めようと思っているうちに時間が過ぎてしまい、いまさら感があるが、いちおう書き付けておこう。 謙虚さと傲慢さがないまぜになっているように感じる。 一方には、間違うことを恐れずに、手持ちの知見をよりどころにして、積…
「地球上には海面水位を65m、つまり20階建てのビルの高さほども上昇させられるだけの氷がある。」(シュテファン・ラームストーフ「温まる海洋と上昇する海」83頁) 名だたる学者やジャーナリストが寄稿した本書は気候変動をめぐる科学的、歴史的、経済的、…
近隣の図書館で借りてきたジョン・ボウカー『世界の宗教大図鑑』は、カラー図版がふんだんに入っており、読むというよりも、眺めるほうが向いているだろう。350頁はそこまで厚くはないが、ハードカバーで、ページにかなりしっかりした紙を用いているため、ず…
20230322@静岡県立美術館 「近代の誘惑——日本画の実践」は「日本画」というジャンルや概念それ自体を問う、なかなか挑戦的な展覧会だった。日本画は西洋との遭遇のなかで、参照項でもあれば、対峙すべき対象でもある洋画との関係のなかで、自己定義を重ねて…
まったく前情報なしで観た結果、「そうか、そういう映画なのか」と思った。宮城リョータの物語としての山王戦。 たしかに漫画版は桜木花道が主人公であり、彼の成長物語だった。赤髪の地毛のわりに内向的な性格の不良である桜木は、惚れっぽいがフラれてばか…
いちおう行くかというぐらいの気持ちで行ったけれど、この展覧会はどう捉えたらいいのだろう。東海道をめぐる「美術展」としては正直物足りないが、「歴史資料」の展示と見るなら悪くない。しかしキュレーターの意図はどうやら前者にあるようで、そこがどう…
『RRR』を観る。これは危険なエンターテイメント映画だ。 1920年代の英国統治下のインドが舞台。主人公となるのは二人の男。ひとりは、インド総督の妻の気まぐれで奪われた妹エッリを取り戻そうとするゴーント族のビーム。もうひとりは、英国統治下のインド…
あまり期待もせず、あまり前情報も入れず観たが、とてもよい映画だった。どこかのシーンがとびぬけてよいわけでもないし、何か突出したものがあるわけではない。淡々と進んでいく家族の物語だ。にもかかわらず、観終わったあと、しみじみと「よい映画を観た…
静岡大学翻訳文化研究会が主催する講演会が無料だったので聞きに行く。講演者は小説家の平野啓一郎。演題は「多言語の中の日本小説」。 会場である静岡県男女共同参画センター「あざれあ」は、思ったより駅から離れていた。「男女」と掲げているけれど、比重…
流し読みで通読した、というか、パラパラとページをめくりながら、ちょこちょこ拾い読みした。だからとても内容を正しく理解しているとは思わない。けれど、人権をグローバルな規模で、世界史的な展望において捉えなおすとどう見えてくるのかという問題につ…
大真面目に作った壮大なB級映画と言いたくなる出来だった、『エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス』は。「ようこそ最先端のカオスへ」というポスターの宣伝文句は、良くも悪くも、的を射ている。物語内容も、ストーリー展開も、映像表現も、…
ひたすら熱く、ひたすら激しい。ここまで真っすぐな物語を見せつけられると、白けそうになるところだけれど、そうした皮肉さまでをも青白く燃えあがらせるほどの、ど真ん中ストレートの物語。 それはもしかすると、若さゆえの純真さなのかもしれない。 しか…
見る前は3時間20分は長いだろうと思ったし、1時間ぐらいたったところで「まだあと2時間以上あるのか」と感じたけれど、なんだかんだで最後まで惹きつけられて、否応なく感動させられてしまった。強い映画だ。 とはいえ、物語としてはオーソドックス。身分違…
トンチンカンな詩の読み方がものすごく意味の領域を広げるんだね。(34頁) 詩人の谷川俊太郎と教え子の正津勉を相手に行われた鼎談の記録だが、鼎談というよりは鶴見俊輔が語り、ふたりが合いの手いれるという感じ。 タイトルは「詩を語る」となっているが…
3時間20分は長い。映像の美しさは素晴らしいと思うし、それを最大限生かした自然描写——森の木々、海の生物——には目を見張るものがある。しかし、ストーリーはまったく古典的な復讐劇と家族愛の物語であり、ここまでの装置を使ってそこまでオーソドックスなお…
全世界の人々の共有財産である広大な海(下450頁) ニナ・バートンの『森の来訪者たち』という素晴らしいエッセイ――コテージをリノベーションするという話を縦糸にして、そのなかで出会っていく動物たちのことを、生物学的な知見や作者の過去の記憶という横…
『閃光のハサウェイ』をAmazon Primeで視聴。 ガンダムはテロをめぐる物語でもある、という言い方は、テロが何かを定義することを求める。テロは字義どおりには恐怖の意味であり、テロは恐怖を手段とした目的の遂行である。恐怖という手段は、物理的には、恐…
いつからAmazon Kindleで岩波文庫が読めるようになっていたのだろう。Unlimitedで読めるものも少なからずある。というわけで、読もうかと思いながらこれまで読まずにきていたユクスキュルを読んでみる。 ここでの問いは、世界はどのように存在しているのかで…
『水星の魔女』12話を視聴。 ジャンルとしての連続性を保証するのは何なのかを考えてしまう。 ガンダム・シリーズのキーとなるのは、当然ながら、ガンダムだ。しかしそれは機体のことなのか、それとも、パイロットのことなのか。機体のスペックのことなのか…
よく出来ている。次が気になって見てしまう。しかし、これがガンダムかと言われると、違和感がないでもない。 ファーストから、ガンダムは子どもたちの物語ではある。理不尽な(現実主義的な、日和見的な、割り切った)大人たちにたいする、純真な(理想主義…
あまり何も考えずに、前情報を入れずに見ていて、最後のクレジットで安彦良和が監督であったことを知り、いろいろと腑に落ちた。 これは戦争時代のなかの厭戦の物語だ。兵士たちによる戦闘が、市井の人々の生活、とくに、戦争の暴力的な力によって親を奪われ…
奇妙な本だ。人口と食料生産の話から、文明論(未開、アメリカ、ヨーロッパ)と続き、jコンドルセやゴドウィン批判にアダム・スミス批判、そして神学論。 表面的には、人口増加と食料増産の非対称性についての科学的=自然的議論であるかのように見える。し…
マルサスの『人口論』(光文社古典新訳)を読む。マルサスの議論にはきわめて仮説演繹的な手ざわりがある。仮定を立て、逆ケースを想定し、反駁し、先取りした結論に雪崩れ込んでいくような、そんな出来レース感がある。その意味で、どこかアダム・スミスの…