うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧

翻訳語考。equal は「平等」か「対等」か。

翻訳語考。equal は等号記号の「=」であり、数字的な意味での「同量」——twice 3 is equal to 6——を表すが、同時に、ひとつずつ足し合わせてピッタリ同じというよりも、トータルな意味での「同等」——we are equal——の両方をカバーしているように思う。つまり…

精神の力としての自由(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

「自由な人たちの都市をつくることはできよう。だが、無知な者にとって、自由にどんな意味があるのか? 自由とは、自分に何が必要かを学び、自分にとって何が好ましいかを考える精神の力にほかならない。たとえ体が鎖につながれていても、頭の中に、哲学者た…

恐れている対象を軽蔑することの後ろめたさ(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

「恐れている対象を蔑むこと、不当な見方だと知りながらその見方を選びとることに、甘ったるい自己嫌悪をほんの少し感じた。」(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

翻訳語考。「生きづらさ」は翻訳できるのか。

「生きづらさ」というワードに、英語を教える者として、引っかかるものがある。どのような英訳が妥当かが、いまひとつわからないのだ。「hard to live」は違うような気がするし、そもそもこれだと名詞化できない。かといって「difficult」を使って、「diffic…

よく知っているつもりの土地のなかのまだ見ぬ世界(ル=グウィン『ヴォイス』)

「よく知っているつもりの土地でも、行っていない町や丘が必ず残っているし、まだ見ぬ世界がなくなるなんてことはありえない」(ル=グウィン『ヴォイス 西のはての年代記II 』) And even if you know a land well, there’s always a town or a hill you ha…

沈黙という裏切り(エルンスト・トラー『ドイツの青春』 )

「誠実であるためには知らなければならない。勇敢であるためには理解しなければならない。公正であるためには忘れることは許されない。野蛮の軛が締めつけるならば、戦わねばならず、沈黙してはならない。このような時代に沈黙する者は彼の人間的使命を裏切…

20231209@静岡音楽館AOI 濱田芳通指揮、アントネッロ、モンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』を聞きに行く。

20231209@静岡音楽館AOI濱田芳通指揮、アントネッロ、モンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』 宗教を信じない者が西欧クラシック音楽の本丸とも言うべき宗教曲を聞くことの矛盾を、昔からずっと感じていた。だから、いわば世俗的な人間劇を前面に押し出…

叙事詩が語らないこと(ル=グウィン『ヴォイス 西のはての年代記II 』)

「わたしはいつも不思議に思っていた。創り人たちはどうして家事や料理を物語から締め出すのだろうと。偉大な戦いは、そのためにこそ戦われるのではないのか──一日の終わりに、安らぎに満ちた家の中で家族が一緒に食事をするためにこそ。国を離れることを余…

貴族性を内面化する(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』)

「自分の夢や最も親密な欲望を、王侯貴族として高みから扱うこと……。それらに気づかないような心の繊細さを持つこと。私たちの存在のうちにおいて自分だけではなく、別の者がいることを理解し、私たちが自分の証人であり、それゆえ、自分にたいしてあたかも…

メディアと変換と翻訳(キットラー『書き取りシステム 1800‐1900』)

「皆さんから[私の方法の]正しい理解を引き出すために、とりわけお願いしたいのは、私たちの口というものを、その様々な要素もろともに、言語と総称されるある種の意味豊かな楽音を奏でることができるような、一つの楽器と見なしていただきたい、というこ…

軽蔑の高貴な術(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』)

「すべてを軽蔑せよ。だがこの軽蔑によって窮屈にならないように。軽蔑によって他人に優るなどと信じるな。軽蔑の高貴な術のすべてはそこにある。」(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』318頁)

殺しはするが、卑しめることはない(ルクリュ『新普遍地理学』9巻)

La plupart des tribus n'ont jamais eu d'esclaves: c'est un crime pour l'Afghan que de « vendre des hommes »; il les tue, mais ne les avilit pas. (Reclus. Nouvelle géographie universelle. vol. 9, 62) Few of the tribes have ever had any slav…

好意をつくりだす(ル=グウィン『ギフト 西のはての年代記I 』)

「母は人に対して警戒心をもつのが苦手だった。警戒心は母の性格にふさわしくないものだったからだ。母は好意のないところに好意を見ることによって、しばしば好意をつくりだしてきた。館の人々は喜んで母に仕え、母とともに働く。母に対しては、気難しい農…

20231201 アリックス・パレ『魔女絵の物語』(グラフィック社、2023)を読む。

魔女絵には、若き美女と、醜い老婆の、ふたつの系譜があるという指摘にまずハッとさせられるが、読み進むほどに、はたして両者を「魔女」というワードでくくることが妥当なのだろうかという気もしてくる。本書は西洋美術における魔女表象を、100頁ほどのコン…