うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ロシア的なパワーと照明の幻想味のミスマッチ:出所のよくわからない『トリスタン』の映像

どういう出所の映像なのかよくわからないが――カメラワークの稚拙さからすると、膝上録音ならぬ膝上録画のような感じもするが、そのわりには字幕が入っているのが解せない――オーケストラのあまりにパワフルな演奏にときどき思わず笑ってしまう不思議な魅力の…

室内楽編曲された『ワルキューレ』:ロングボロー音楽祭の映像

YouTubeのサジェッションでたまたま見つけたこのワーグナーの『ワルキューレ』の映像は、2021年6月8日、イギリスのコッツウォルズで開かれていたロングボロー音楽祭の記録とのことだが、室内オケのサイズにまで縮小したFrancis Griffinの編曲(4-4-3-3-2の1…

空虚な巨大さ:アイロニストとしてのロリン・マゼール

ロリン・マゼールの作り出す音楽の空虚な巨大さはひたすら不気味だ。全体の構えは大きく、音は停滞を嫌うかのように勢いよく流れていく。引き締まった硬めのリズムが小気味よい。それでいて、柔軟さに欠けているわけでもなく、しなやかさもある。抒情的な歌…

『マイスタージンガー』のハンス・ザックスの革命性

ドイツ語再勉強のためにワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のリブレットを読みながら、このオペラにおけるハンス・ザックスの立ち位置がわからなくなってきた。 彼がニュルンベルクにおいて尊敬を集める人物であることはまちがいない。ギル…

豊饒な抒情性:ジャン・ジロドゥ、安堂信也訳『ジークリート』(白水社、2001年)

ジャン・ジロドゥの処女戯曲ではあるが、ジロドゥはすでに小説家としてデビューしていた。そしてこの戯曲はすでに出版していた小説の改作であるという。小説のほうは読んでいないので、小説から戯曲へのアダプテーションにおいてジロドゥが何を行ったのかを…

アメリカ観察記断章。フランス語のon。

To which extent is the French language enriched by "on"? It seems to me that Zola's writing style is almost inconceivable without this impersonal but still participatory pronoun. Probably this is the case with any French writer. I mean, I …

感情と時間を混ぜ合わせる(ウルフ『灯台へ』)

To her son these words conveyed an extraordinary joy, as if it were settled, the expedition were bound to take place, and the wonder to which he had looked forward, for years and years it seemed, was, after a night's darkness and a day's s…

高橋アキの直感的なピアニズム:高橋アキ『パルランドーー私のピアノ人生』(春秋社、2013)

高橋アキのなかにはかなりはっきりとした音響世界があるようだ。そしてそれは、サウンド的であると同時に、ビジュアル的なものでもある。通り抜ける風、きらめく水面。 www.shunjusha.co.jp その系譜に連なるのが、武満徹であり、モートン・フェルドマンであ…