うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

拡散し、集合するわたしたち:ヴァージニア・ウルフ、片山亜紀訳『幕間』(平凡社ライブラリー、2020)

ヴァージニア・ウルフの遺作である『幕間』はおそらくウルフの小説のなかで読み直した回数が最も多いテクストになるはずだ。大学院のゼミで読んだからその時にすでに何度か通読としたせいもあるけれど、アマチュアの野外劇として演じられるイングランドンの…

溶け合う身体、振動する共感:ヴァージニア・ウルフ、森山恵訳『波』(早川書房、2021)

不可能な願望に浸りたいのだ。歩いているおれは、不可思議な共感の振動、振幅でふるえてはいないだろうか。( 127-28頁) 「人生とは、分かち合えないものがあるといかに色褪せるものか . . . 」(304頁) 『波』はウルフがたどりついた極北だ。散文詩で書か…

多元性に向かう変容:大野和基『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』(NHK出版、2022)

オードリー・タンがやっていることをひとつひとつ取り上げてみれば、それ自体は、とくには新しくはない。 民主主義的な価値観がある。透明性、普遍的参加、インクルーシブ、非暴力的な意思決定、討議的プロセス。 プログラミング的なマインドセットがある。…

絶えず似ているところを見つける技術としての優しさ(オルガ・トカルチュク『優しい語り手』)

「優しさとは、人格を与える技術、共感する技術、つまりは、絶えず似ているところを見つける技術だからです。物語の創造とは、物に生命を与えつづけること、人間の経験と生きた状況と思い出とが表象するこの世界の、あらゆるちいさなかけらに存在を与えるこ…

特任講師観察記断章。暗誦の思わぬ効用。

特任講師観察記断章。暗誦を課題として与えたことはない。無理やり暗記させても、思い出しながら言うので精一杯になってしまって、ほかにケアすべきことがなおざりになってしまいそうな気がするからだ。しかし、今日、音読試験をしたあと、試験範囲になって…

特任講師観察記断章。不感症的な(と言いたくなる)動かない身体。

特任講師観察記断章。還元的に言えば、リズムは個々の音のあいだの長短の関係(時間)、ノリは個々の音のあいだの強弱の関係(質量)、イントネーションは個々の音のあいだの高低の関係(ピッチ)。そして、英語において個々の音のコアをかたちづくるのが音…

「陽は昇った。黄と緑の筋が」(ウルフ、私訳『波』3)

「陽は昇った。黄と緑の筋が岸辺に落ち、朽ちたボートの肋材を黄金に染め、エリンギウムを、鎧をまとうその葉を、鋼鉄のような青に輝かせた。光は、扇のかたちを描いて浜辺を疾走する薄く速い波を、貫きとおさんばかりである。頭を振った少女がいた。宝石を…

「陽は高く昇って」(ウルフ、私訳『波』2)

「陽は高く昇っている。青い波、緑の波はさっと扇で払うように浜辺を洗い流し、穂のように長く伸びた軸に多くの花をつけるエリンギウムの周りを旋回し、浅い光の水たまりをあちこちの砂の上に残す。波が引いた後に薄黒の輪郭が残る。霧に覆われていた柔らか…

「夜明けはまだ」(ウルフ、私訳『波』1)

「夜明けはまだ来ていない。海と空は見分けられない。けれど、海のほうにはわずかに折り目がついている。皴のよった布地のように。次第に空が白み始め、水平線が暗い線となり、空が海と分かたれる。グレーの布地を押しとどめる厚く重いウネリが、ひとつまた…

特任講師観察記断章。グループワークを意識的に導入。

特任講師観察記断章。今学期は最初からグループワークを意識的に導入してみている。きちんと理解してもらうには、こちらから解説するだけでは足りないし、問題を何度も解くだけでも不充分だ。自分で説明できるようにならなければならない。さらに言えば、口…