うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

流動する複層:エサ=ペッカ・サロネンの音楽の自然の秩序

流動する複層――エサ=ペッカ・サロネンの指揮する音楽をそのような言葉で言い表してみたい欲望に駆られる。サロネンの音楽は、多声的でありながら、和声的なところに回収されない。縦のラインで輪切りにして、それを連続させるのではなく、相互に独立した横…

ポスト・コロナ時代のオーケストラの響き:室内楽的な水平性、マスとしてのまとまりの希薄さ

「プルト」という単位は過去の遺物となってしまうのだろうか。 ここで弦奏者は、2人1組で譜面をシェアするのではなく、1人ずつ独立した譜面台を使っている。ひとりで譜めくりも演奏もこなさなければならないからだろう(プルト制であれば、ひとりが弾き続け…

キャス・サンスティーン『ナッジで、人を動かす』(NTT出版、2020):それとなく決定的な影響を与えることの倫理性

選択の誘導は、それ自体としては、たんなる技術でしかない。ある選択を優先的に促すようなアーキテクチャを作ることは、たんなる技術以上のものではあるが、それでも、ほかの選択が原理的にブロックされたり消去されたりしておらず、依然として選択者が自由…

的場昭弘『未来のプルードン』(亜紀書房、2020):孤独な思想家による所有と権力の批判

マルクスの永遠のライバルとしてのプルードン。マルクスの罵倒の常套戦略とは、相手の議論が誰かの二番煎じであることを徹底的な文献学的調査によって暴き立てることであるという。それはこじつけに近いところもあるが、論敵の信用を下げるうえでは一定の効…

基礎科学という脅威(劉慈欣『三体』)

「「敵はなにを恐れているんだと思う?」「あんたちだよ! 科学者だ! しかもおかしなことに、研究が実用性から遠のけば遠のくほど恐れられているみたいだ……だからこんなに容赦のないやりかたをしてるんだよ。あんたらを殺すことが問題の解決になるなら、全…

「私たちは皆で一緒に世界を築くことができる」: ティム・インゴルド、奥野克己・宮崎幸子 訳『人類学とは何か』(亜紀書房、2020)

人類学は世界-他者「とともに」考える哲学であって、いわゆる哲学のような世界-他者「について」の哲学ではないとティム・インゴルドが挑発的に述べるとき、彼はある意味で、ヘーゲルが『精神現象学』の序文で述べたことを敷衍しているとも言える。認識され…

ドホナーニの無骨な充実または音の密度:ひとつの音楽世界の体現としてのコンサート

この充実ぶりは何なのだろう。豊穣というわけではない。みずみずしい弾力性ではなく、生硬な不器用さがある。音は磨き抜かれているけれども、角が取れて滑らかになるのではなく、地肌が露出して、ごつごつとした手ざわりになっている。 無骨なのだ。音がぶつ…

ビニ・アダムザック、橋本紘樹・斎藤幸平 訳『みんなのコミュニズム』(堀之内出版、2020):「わたしたち全員の物語」

未来のコミュニズムの妨げになるのは、過去のコミュニズムなのです。(130頁) 「Xはすべてだめ、Yならすべてうまくいく」という物言いは、詐欺師の口上だ。レトリックとして注意深く使うならわかる。意図的に使うならわかる。しかし、これを本当の言葉とし…

チェリビダッケとベルリンフィルの出会い:リズミックな硬さと雄大なしなやかさ

チェリビダッケのスローテンポは、近くによりすぎると止まっているように見えるけれども、離れてみればすべてが動いていることがわかる悠然とした大河の流れを思わせる。でっぷりと腹の出たチェリビダッケの座った身体が水面下の動きのない動きをマクロに体…

ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ、中島直人 監訳『ストリートファイト――人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』:「都市革命のためのハンドブック」、または既存の都市空間の効率的な人間化

公共領域に著作権は発生しない。(130頁) ジャネット・サディク=カーン、セス・ソロモノウ、中島直人 監訳、石田祐也、関谷進吾、三浦詩乃 訳『ストリートファイト 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』 都市空間は誰のためのものか。都…

メノ・スヒルトハウゼン、岸由二・小宮繁 訳『都市で進化する生物たち―― “ダーウィン”が街にやってくる』(草思社、2020):都市環境という自然での進化

都市環境を進化のための土壌として捉えること、または都市もまた自然の一部であると考えること。それはつまり、人間と自然の二分法を改定することだ。人間が作り出した「人工的」な空間に生物が生息する以上、それもまた生物にとっては「自然環境」であり、…