うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ビジネス的なセンス:静岡市美術館「ピーターラビット展」

20221022@静岡市美術館「ピーターラビット展」 そこまで興味があるわけではないけれど、とりあえず足を運ぶ。わりと発見はあった。 ビアトリクス・ポターは博物学的な素養を身に着けており、キノコや菌類について論文を書いたほどだが、当時の学会の女性軽視…

巻物という特異なメディアのパノラマ性:静岡県立美術館「絶景を描く——江戸時代の風景表現」

20221021@静岡県立美術館「絶景を描く——江戸時代の風景表現」 無料鑑賞券を手に入れていたので、無駄にするのもよくないと思い、今週末には終わるこの展覧会に行ってきたわけだけれど、いまひとつピンとこない展示だった。ざっと流し見た自分が悪いのは承知…

「暗い情念の流動体」:ダレル『アレクサンドリア四重奏』(河出書房新社、2007)

なぜなら人間とは土地の精神の延長にほかならないからだ。(『ジュスティーヌ』219頁) 相対性原理の理論は、抽象画や、無調音楽や、無定形(あるいはとにかく循環形式しかない)文学に対して直接の責任がある . . . (『バルタザール』171頁) わたしたちア…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析7:1952年フラグスタート

1936年のコヴェントガーデンでの伝説的な公演記録から16年が過ぎている。フラグスタートはもう60手前。引退を考えるとまではいかないとしても、最盛期のころのレパートリーを最盛期のように歌うことは、肉体的に厳しくなってきている。 声が重く、暗い。輪郭…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析7:1936年フラグスタート

1936年のコヴェントガーデンでの伝説的な公演記録で歌うキルステン・フラグスタートの声はいまだに若い。1895年生まれだから、まだ40歳前半で、キャリア的には最盛期にあると言っていいだろうか。フリッツ・ライナーの折り目正しい楷書体の指揮と相まって、…

チルギルチンの公演を聞いていくつか考えたこと

昨日の チルギルチンの公演を聞いていくつか考えたこと(YouTube で Chirgilchin 検索するといろいろと音源が出てくる)。 *ユニゾンは斉唱の第一歩なのか司会の巻上によれば、チルギルチンは伝統的なものを引き継ぐ一方で、現代的なアレンジも加えていると…

大地を響かせ、空気を震わせる――ロシア連邦トゥバ共和国のチルギルチン

20221009@グランシップ中ホール・大地 ホーメイという唱法はなんとなくは知っていた。しかし、ひとりでふたつの音を同時に出す技法ということ以上のことは知らなかったし、あえて調べてみようという気にもならないまま、ここまで生きてきた。ロシア連邦トゥ…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析6(試訳、私訳)

Mild und leise なんと穏やかに、静かに、wie er lächelt, 彼は笑っていることか。wie das Auge なんと優し気にあの人はhold er öffnet --- 目を開いていることか——seht ihr's Freunde? 見えるでしょう、あなたたちにも? Seht ihr's nicht? 見えないのです…

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析5(日本語にすると、多少の文法解説を添えて)

日本語にすると 多少の文法解説を添えながら日本語にしてみる。ただ、わたしのドイツ語力はかなり適当なので、以下の説明にはさまざまな誤りがあるかもしれないことをあらかじめお断りしておく。 Mild und leisewie er lächelt,wie das Augehold er öffnet -…