うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

鬱屈した憎悪とおおっぴらな憎悪(ディドロ「君主の政治原理」)

「諷刺と不平を民衆にゆるさねばならぬ。鬱屈した憎悪はおおっぴらな憎悪より危険だ [Il faut lui permettre la satire et la plainte : la haine renfermée est plus dangereuse que la haine ouverte]。」(ディドロ「君主の政治原理 [Principes de politi…

変革された観客の作品への逆作用(ブロッホ『この時代の遺産』)

「ブレヒトは自己の作品によって観客そのものを変革しようとするのであり、こうしてまた変革された観客が(そしてブレヒトもいまやみずからその一員なのだが)作品に逆作用をおよぼす。」(ブロッホ『この時代の遺産』633‐34頁)

多時間かつ多空間的な弁証法(ブロッホ『この時代の遺産』)

「過ぎ去ったものを何もかもすべて、支配的な声を抜きにして、いわば無限に多声的に受けとるのは、たんなる歴史主義である。過ぎ去ったもの何もかもすべてに、典型的な同一性をもった、少なくとも形式的な同一性をもった「法則」だの「内実」だのを適用する…

あさましく偽善的な平等化としての戦争(ジロドゥ『トロイア戦争は起こらない』)

”HECTOR Mais ce que j’ai à vous dire aujourd’hui, c’est que la guerre me semble la recette la plus sordide et la plus hypocrite pour égaliser les humains . . . [だが、今日、きみたちに言っておきたい、戦争は人間を平等にするための最もあさまし…

特任講師観察記断章。実用英語的なテクストからいかにして人文学的な雑談的脱線に学生たちを引き込むか。

特任講師観察記断章。実用英語的なテクストからいかにして人文学的な雑談的脱線に学生たちを引き込むか。 今日の遊び。the sulfur is present in fuelのis presentを別の表現で言い換えるとどうなるかという問いかけをした。こちらとしては、existを想定して…

特任講師観察記断章。キレた言い訳。

特任講師観察記断章。「こんなふうにキレることを愉しんでやっているわけではまったくない。いつだってキレたあとは嫌な気持ちになる。心が削られる。しかし、ある程度の労力と時間をかければ必ずできることをやってきていない、しかも、特筆すべき理由もな…

戦略の論理、弁証法の論理、または異質なものを異質なままに(フーコー『生政治の誕生』 )

Et ce dont il faut bien se souvenir, c'est que l'hétérogénéité n'est jamais un principe d'exclusion ou, si vous voulez encore, l'hétérogénéité n'empêche jamais ni la coexistence, ni la jonction, ni la connexion. Disons que c'est précisémen…

予示的な祝福(ギュイヨー「戦争」)

Longtemps reste en nos cœurs, aux guerres survivant, La haine l’injustice appelle l’injustice ; Triste fécondité, le mal produit le mal ! Quel siècle mettra fin à ce cycle fatal ? Renonçant, à saisir la dernière victoire, Quel peuple élarg…

AIが可能にする中央集権化(ユヴァル・ノア・ハラリ『21世紀の人類のための21の思考』)

In the late twentieth century democracies usually outperformed dictatorships because democracies were better at data-processing. Democracy diffuses the power to process information and make decisions among many people and institutions, whe…

常時接続状態にはなりえない人間とそうでありえるコンピューター(ユヴァル・ノア・ハラリ『21世紀の人類のための21の思考』)

Since humans are individuals, it is difficult to connect them to one another and to make sure that they are all up to date. In contrast, computers aren’t individuals, and it is easy to integrate them into a single flexible network. Hence w…

特任講師観察記断章。普遍の不自然さの必要性。

特任講師観察記断章。Universalから「普遍」という訳語がすぐ出てこないというのは文系の大学2年生としていかがなものだろうかと思う自分の衒学的な性向はいったいぜんたい真っ当なのかと疑ってかかるべきだという意見はまったくもっともではあるのだけれど…

特任講師観察記断章。ブレインストーミングの不承不承の導入。

特任講師観察記断章。人文学にたずさわる者として、大学の経営主義に諸手を振って賛同することは原理的にありえないとはいえ、数年後に社会に出ていく学生たちをビジネス界の言葉と親しませることに反対するところまではいかない。そういうわけで、「ブレイ…

「理解可能」な翻訳のむずかしさ:ステファヌ・マラルメ、柏倉康夫訳『詩集』(月曜社、2020)

ステファヌ・マラルメ、柏倉康夫訳『詩集』(月曜社、2020) マラルメは何度読んでみてもどうしてもピンとこない。フランス語で読んだほうがもっとわからないだろうけれど、そのほうがマラルメの詩の凄味はわかる気がする。こう言ってみてもいい。日本語にな…

ワクチン接種2回目

ワクチン2回目接種から15時間ほど経過して38度近くまで体温が上がってきた。ほかの特定の症状をともなわないこの漠然とした全身の倦怠感と悪寒は未体験の身体状態だが、それに呼応する精神状態はかならずしも未知のものというわけでもなく、いまはただ、いつ…

寛容と狭隘(ギュイヨー「詩人の悪」) 

それでは足りないのだ、ほんの一日だけ 映し出すのでは、押し黙る宇宙を――そして消えてしまう宇宙を とどめたいのだ、ああ、漠とした偉大なるイマージュであるお前を 他のものに刻むことができたら! 永遠の自然 がわたしに憑き、つきまとい、わたしの詩から…

健康的な倦怠感:Luiz Fernando Malheiroとアマゾナス・フィラルモニカの中音域の旋律的音楽

このところLuiz Fernando Malheiroというブラジルの指揮者の録音をYouTubeで聞いている。ネットで検索しても英語の情報はでてこないが、ブラジルのオペラ界の重要人物のひとりらしく、アマゾナス州の州都マウナスのアマゾナス・フィラルモニカの芸術監督を務…

文語と口語の関係(堀口大學「僕の文法」)

「文語に口語のやさしさを/口語に文語のきびしさを」(堀口大學「僕の文法」quoted in アーサー・ビナード『日本の名詩、英語でおどる』106頁)

灯台の光と交錯する視線(ウルフ『灯台へ』I. 11)

「いいえ、そんなことはない。彼が切り抜いた写真のいくつか――冷蔵庫、芝刈り機、燕尾服を着た紳士――をひとつにまとめながら、彼女はそう思った。子どもたちはずっと覚えている。だからこそ、何を言ったか、何をしたかは、とても大切なことなのだ。子どもた…

ピアノ曲としての『トリスタン』:大井浩明の意図的に抑制的なピアニズム

大井浩明と聞いてすぐに思い出すのは、Timpaniから出ているアルトゥーロ・タマヨとルクセンブルク・フィルとのクセナキスの録音で、そこでの大井のピアノは、奏者の肉体的な限界と楽器の物理的限界とを対決させたような、表現としての軋みがあったけれど、こ…