うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

すべてを検討した音楽(しかし、明晰すぎることはなく):テイトとRAIの『マイスタージンガー』全曲

ジェフリー・テイトのワーグナーをずっと聞いてみたいと思っていた。いまはもうネットでは出てこない長文の邦訳インタビューのなかで、1990年代なかばにシャトレ座で振ったワーグナーの『指環』について、イタリア風に旋律を歌わせるワーグナーをやろうとし…

濫用権としての財産権(グレーバー&ウェングロウ『すべてのはじまり』)

「ローマ法の財産の捉え方——それは今日、ほとんどすべての法体系の基盤である——をユニークなものにしているのは、ケアとシェアの責任を最小限にまで切り詰めている、それどころか、完全に切り捨てているところだ。ローマ法では、所有にかんして三つの基本権…

人間の原初的な反抗心(グレーバー&ウェングロウ『すべてのはじまり』)

「遠くの地で受け入れてもらえることがわかっているからこその、共同体から抜ける自由。一年の時期に応じて、社会構造のなかをあちこち異動する自由。権威に従わず、大事に至らない自由。これらはみな、わたしたちの遠い祖先のあいだでは当然のものとみなさ…

クラウス・マケラの感染的な歓喜:流線形の抒情性、気負いのない感じのよさ

クラウス・マケラを新時代のカラヤンと呼んでみたい誘惑に駆られる。どこまでものびやかで、どこまでもみずみずしい、流線形の抒情性。指揮の身振りが大きく、抉るように前のめりに棒を突き出すかと思えば、見得を切るかのように両腕を大きく振るう。スペク…

「わたしたちは共に自らを創り出していくプロジェクト」(グレーバー、ウェングロウ『すべてのはじまり』)

「さまざまな形態の社会組織を実験的に試みていく能力それ自体が、わたしたちを人間たらしめているものの核心をなしているのではないだろうか。つまり、自らを創造する能力、自由さえをも創造する能力を備えた存在としてのわたしたちを。本書で見ていくよう…