うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

加害者と被害者のあいだの非対称性:姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋、2018)

小説は事実的に正しくなければならないのか この小説の「竹内つばさ」が東大生「すべて」を象徴していると考えるのは誤りであるし、東大生の「平均」を表していると受け取るのもやはり正しくないだろう。本書をめぐって駒場キャンパスで開かれたブックイベン…

人生がゲームだなんて条件しだい(サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』)

「「つまり人生はゲームなんだみたいなことを、ずうっと話されていました。はい……はい先生、そのとおりです。よくわかっています」/ゲームときたね。まったくたいしたゲームだよ。もし君が強いやつばっかり揃ったチームに属していたとしたら、そりゃたしか…

自律と啓蒙のススメ:中野好夫『私の憲法勉強』(講談社現代新書、1965;ちくま学芸文庫、2019)

一般市民の果たすべき義務と責任についての倫理的問いかけ 倫理的に考えれば騙す方が悪い。しかし、だからといって、騙された方に責任がないわけでもない。騙された方が責任を問われないわけではない。とくにそれが個人同士の事柄ではなく、国全体を巻き込む…

れいわ新撰組山本太郎政見放送

イデオロギー的にも心情的にも、理性的にも感性的にも、山本太郎の言っていることに大いに賛同していいはずであるにもかかわらず、彼の語る言葉にたいしてうまく言葉にできない微妙なひっかかりを感じてしまう。なぜなのかと自分でも不思議に思う。だからこ…

ミイラの鉱物性と樹木性:「古代アンデス文明展」

20190710@静岡県立美術館 ミイラの鉱物性と樹木性 体育坐りをするかのように膝を両手で抱きかかえたままミイラ化した女性。のけぞった頭のせいでむき出しになった顎の下のくぼみは老木の節のようである。肉が乾き、骨を覆うだけになった皮膚は黄ばんだ和紙…

虚構をまるで現実のように読ませる:カルラ・スアレス、久野量一『ハバナ零年』(共和国、2019)

探偵だと思っていたのにいつのまにか追われる方になっていた、操っている方だと思っていたらいつのまにか操られる方になっていた。いつのまにかエージェンシーが侵食され、他人の駒を演じさせられていることに気づいてしまう。自分が主役の現実世界の話なの…