うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

特任講師観察記断章

20240713 「平野富山展」を観る。

20240713 平野富山展@静岡市美術館 正直に言えば「誰?」と思いながら足を運んだ。「平櫛󠄁田中と歩んだ彩色木彫、追求の軌跡」という副題も個人的には役に立たない。「彩色木彫」という言葉と、キービジュアルとして使われている能面をかぶった人形で、これ…

特任講師観察記断章。歴史意識のための歴史知識の欠如。

特任講師観察記断章。わたしたちはどこで歴史意識を身につけるのだろうか。そのために必要な歴史知識をどこから仕入れるのだろうか。 そんなことを考えてしまうのは、学生たちの現代世界にたいする関心の薄さが、歴史知識=意識の乏しさと表裏一体であるよう…

特任講師観察記断章。エンターテイメントの空間としての大学。

特任講師観察記断章。「大学がいまではもうエンターテイメントの場になっているのではないか」。非常勤で英語を教えている方が雑談のなかでふと口にした言葉が、ひどく腑に落ちた。 大学のテーマパーク化は1990年代ぐらいから(それとも1980年代から?)言わ…

特任講師観察記断章。日本語の体言止めの英語での濫用は誤用。

特任講師観察記断章。For example, onions, carrots, and potatoes. のようなセンテンスといえないものにこれまで何度遭遇したことだろうか。というよりも、なぜこれが中高の英語で直されていないのか、不思議でならない。さらに不思議なのは、だいたいこの…

特任講師観察記断章。最近の学生の手書きの文字の無個性、または筆跡はもはや書き手の人柄について多くは語っていないこと。

特任講師観察記断章。このところ手書きの記述式試験を課していることもあって、学生の肉筆を見る機会に恵まれているけれど、それを見るにつけても、もはや性別と筆跡の相関関係は消滅したのではないかという気がしてくる。高校時代がちょうどポケベルの時代…

特任講師観察記断章。声の小ささ。

特任講師観察記断章。声の小ささ。Covidの余波と言っていいのかわからないけれど、発言するときの声のボリュームが明らかに落ちた。滑舌が悪いとか、ボソボソ喋るというのではなく、声のベクトルがない。どこに自分の声を飛ばしているのかという意識が不在。…

特任講師観察記断章。マルチタスクがデフォルトとなった教室。

特任講師観察記断章。もはや学生にこちらの話をマルチタスクではなく聞くことを求めるのが無理なのかもしれない。というよりも、今の世代がシングルタスクでやっていることは、どれだけあるのだろうかと問うべきかもしれない。 もちろん、ながら聞きは昔から…

特任講師観察記断章。ChatGPTの恐るべき凄さ。

特任講師観察記断章。ChatGPTが凄いという話をNew York TimesやVoxのポッドキャストで聞いて、今日、学生の前で実演してみせたのだけれど、想像の何倍も凄かった。 簡単な指令を出すだけで、平均点のエッセイを即座に生成してくれる。 AIがここまできた以上…

特任講師観察記。何のための採点。

特任講師観察記。本務校の採点業務は9割は片付いた。追試対応をしなければならない学生がまだいるけれど、大筋では終わったといっていい。しかし、採点をやるほどに、何のための採点なのかという気がしてくる。 評価は必要だ。いや、評価というよりも、批評…

特任講師観察記断章。暗誦の教育的効果。

特任講師観察記断章。漢文の素読はとても意味のあることだったのではないか。読み下し文には独特のリズムがあり、定型的な表現がある。韻文とまではいわないが、散文というにはあまりにも定式化されたリズムとメロディがある。だから、暗誦するところまでや…

特任講師観察記断章。暗誦の思わぬ効用。

特任講師観察記断章。暗誦を課題として与えたことはない。無理やり暗記させても、思い出しながら言うので精一杯になってしまって、ほかにケアすべきことがなおざりになってしまいそうな気がするからだ。しかし、今日、音読試験をしたあと、試験範囲になって…

特任講師観察記断章。不感症的な(と言いたくなる)動かない身体。

特任講師観察記断章。還元的に言えば、リズムは個々の音のあいだの長短の関係(時間)、ノリは個々の音のあいだの強弱の関係(質量)、イントネーションは個々の音のあいだの高低の関係(ピッチ)。そして、英語において個々の音のコアをかたちづくるのが音…

特任講師観察記断章。グループワークを意識的に導入。

特任講師観察記断章。今学期は最初からグループワークを意識的に導入してみている。きちんと理解してもらうには、こちらから解説するだけでは足りないし、問題を何度も解くだけでも不充分だ。自分で説明できるようにならなければならない。さらに言えば、口…

特任講師観察記断章。審美眼(というか審美耳)を育てる。

特任講師観察記断章。ノンネイティヴが英語でうまくプレゼンテーションをやるためには、「いわゆる英語らしさ」を目指すのはナンセンスだ、そうではなく、ゆっくり、丁寧に、ポイントになるところを前面に出すようにやらなければならない、そのためにこそ、…

特任講師観察記断章。「外国人 foreigner」という言葉の問題性。

特任講師観察記断章。学生たちが時折イノセントに使う「外国人 foreigner」という言葉が気になって仕方ない。記述のために使っているのであって、否定的含意を持ちうる用語として使っているのでないのはわかる。しかし、foreignと名指した時点で、そこに、あ…

特任講師観察記断章。教えながら教わる。

特任講師観察記断章。徒手空拳で進めてきた「強勢、抑揚、発音」の授業2コマをどうにか完走した。来週の期末試験の課題文章を探さなければいけないし、期末試験課題を採点して最終成績を出すという大仕事も残ってはいるけれど、そちらはエピローグのようなも…

特任講師観察記断章。「それではみなさん、よいお年を」

特任講師観察記断章。今年も終わりに近づいている。学生の大半がPCないしはタブレットを持っているというデジタル・インフラのパラダイムシフトを踏まえて、電子データだからこその課題を出してみたというのに、手書きにこだわる学生が一定数いる。これはい…

特任講師観察記断章。グレゴリー・ベイトソンから学んだこと。

特任講師観察記断章。「説明するというのは、テクストで使われている単語や言い回しとは別の言葉を持ち込むことです。というのも、テクストの言葉を使ってしまったら、単なる繰り返しにしかならないからです。それはトートロジー、同語反復です。では、どの…

特任講師観察記断章。学びにおける初歩の重要性。

特任講師観察記断章。毎度のことながら2コマ連続の3時間以上の長丁場のなか、50人以上の学生の強勢と抑揚と発音を聞き続けるのは骨が折れる。先学期は、個々の音の発音を、舌の位置から息の出し具合、音高や音価といったミクロなレベルでトレーニングした。…

特任講師観察記断章。教養的なものと訓練的なものを無媒介で接続するという節操のない授業。

特任講師観察記断章。教養的なものと訓練的なものを無媒介で接続するという節操のない授業を展開している。 発音についてのテクニカルなところに踏み込みすぎず、かといって、単なる口移しではないかたちで、スクリプトの「読譜法」を教授し、朗読させ、それ…

特任講師観察記断章。合理的配慮の「運用」にたいする苦言。

特任講師観察記断章。合理的配慮の試みにたいして原理的に反対するところはまったくないし、理念的には全面的に賛成だ。しかし、現実的な運用については大いに困惑させられているというのが正直なところである。 情報共有はありがたい。しかし、情報だけ投げ…

特任講師観察記断章。実用英語的なテクストからいかにして人文学的な雑談的脱線に学生たちを引き込むか。

特任講師観察記断章。実用英語的なテクストからいかにして人文学的な雑談的脱線に学生たちを引き込むか。 今日の遊び。the sulfur is present in fuelのis presentを別の表現で言い換えるとどうなるかという問いかけをした。こちらとしては、existを想定して…

特任講師観察記断章。キレた言い訳。

特任講師観察記断章。「こんなふうにキレることを愉しんでやっているわけではまったくない。いつだってキレたあとは嫌な気持ちになる。心が削られる。しかし、ある程度の労力と時間をかければ必ずできることをやってきていない、しかも、特筆すべき理由もな…

特任講師観察記断章。普遍の不自然さの必要性。

特任講師観察記断章。Universalから「普遍」という訳語がすぐ出てこないというのは文系の大学2年生としていかがなものだろうかと思う自分の衒学的な性向はいったいぜんたい真っ当なのかと疑ってかかるべきだという意見はまったくもっともではあるのだけれど…

特任講師観察記断章。ブレインストーミングの不承不承の導入。

特任講師観察記断章。人文学にたずさわる者として、大学の経営主義に諸手を振って賛同することは原理的にありえないとはいえ、数年後に社会に出ていく学生たちをビジネス界の言葉と親しませることに反対するところまではいかない。そういうわけで、「ブレイ…

特任講師観察記断章。全人的な行為としての教育。

特任講師観察記断章。アメリカ人の鉛筆の持ち方のひどさについてはかなり前に書いたことがあるけれど、それと同じ現象を日本でも観察できるようになってきたのかもしれない。学期末の試験のあいだ、学生の手元を見ていると、なかなか個性的なペンの持ち方を…

特任講師観察記断章。出席にたいする執着。

特任講師観察記断章。この出席にたいする執着は何なのか。この執着はいったいどこから来るのか。 学生から寄せられる問い合わせの筆頭に来るのは出欠確認についてのものだ。今期は、公欠扱いになるケースがいろいろとあり、欠席届が学生室経由で送られてきた…

特任講師観察記断章。英語力と思考力。

特任講師観察記断章。英語できちんとした文章を書くために必要なのは、究極的には、狭義の英語力ではなく、広義の思考力であり、話を作る能力だ。日本語で論理的に語ったり、説得的な物語を作ったりできないとしたら、どうして英語でそのようなことができる…

特任講師観察記断章。統合者としての語学教師。

特任講師観察記断章。社会道徳は時代によって移り行くものだから、わたしたちのほうにもアップデートが必要になるわけだけれども、OSやソフトウェアと違うのは、倫理の最新版のダウンロードやインストールは自動的にお知らせが入らないところだろう。手動で…

特任講師観察記断章。褒めたり叱ったりという情動的交感。

特任講師観察記断章。大学教育はどこからどこまでのものなのだろう。既存の知の共有と新たな知の創出が、そのコアにあることは確信しているのだけれど、褒めたり叱ったりという情動的交感は、大学教育の範疇に入るのか。入るとすれば、どのあたりに位置付け…