うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

絶えず似ているところを見つける技術としての優しさ(オルガ・トカルチュク『優しい語り手』)

「優しさとは、人格を与える技術、共感する技術、つまりは、絶えず似ているところを見つける技術だからです。物語の創造とは、物に生命を与えつづけること、人間の経験と生きた状況と思い出とが表象するこの世界の、あらゆるちいさなかけらに存在を与えることです。優しさは、関係するすべてに人格を与えます。それらに声を与え、存在のための時空間を与え、彼らが表現されるようにするのです . . .

優しさは自発的で無欲です。それは感情移入の彼方へ超えゆく感情です。それはむしろ意識です。あるいは多少の憂鬱、運命の共有かもしれません。優しさは、他者を深く受け入れること、その壊れやすさや掛け替えのなさ、苦悩に傷つきやすく、時の影響を免れないことを、深く受け入れることなのです。

優しさは、わたしたちの間にある結びつきや類似点、同一性に気づかせてくれます。それは世界を命ある、生きている、結びあい、協働する、互いに頼りあうものとして示す、そういうものの見方です。

文学は自分以外の存在への、まさに優しさの上に建てられています。それは小説の基本になる心理的カニズムです。この奇跡的なツール、人間のコミュニケーションの最も洗練された方法のおかげで、わたしたちの経験は、時間を超えて旅をして、まだ生まれてもいない人にもめぐりあいます。わたしたち自身やわたしたちの世界について、わたしたちが書いたことや語ったことに、やがて生まれる彼らもいつかはたどり着くでしょう。」(オルガ・トカルチュク『優しい語り手』41‐43頁)

 

優しさの原語はczułyで、ポーランド語で、「細やかさや繊細さ、感受性の豊かさをあらわすとともに、人としての誠実な在り方を示唆している」(105頁)とのこと。Wikitionaryによれば、1. affectionate/ 2. tender, sensitive/ 3. sensitiveとなっている。これはノーベル賞受賞講演のタイトルだが、英訳はThe Tender Narratorのようだ。