うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

2021-12-25から1日間の記事一覧

ブルックナーの真実(田代櫂『アントン・ブルックナ――魂の山嶺』)

まさに魂のこもったテクスト。ブルックナーにたいする愛にあふれている。 しかし、ブルックナーを美化し、聖人に祀り上げるのは、著者のめざすところではない。本書は、一方においては、わたしたちのステレオタイプ的なブルックナー像を強化する。なるほど、…

ウィルソン夏子『エドマンド・ウィルソン――愛の変奏曲』『ガートルード・スタイン――20世紀文学の母』

ウィルソン夏子のテクストには独特の手ざわりがある。純粋な伝記としては、彼女の記述は粗いだろう。誠実ではあるし、的確ではあるが、厚くはない。 しかし、にもかかわらず、彼女の伝記は、電話帳のように分厚い伝記よりも圧倒的に鮮烈だ。それは、彼女が、…

長さの必然性(フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』)

長い。274分に及ぶこのドキュメンタリーを見てそのような印象を持たない者はいないのではないか。もちろん、この長大さを「長すぎる」とネガティヴに捉えるか、「長いにもかかわらず」と留保をつけるか、「この長さだからこそ」とポジティヴに捉えるかは、人…