2023-01-01から1年間の記事一覧
「想像力は、ものごとには別のやり方があるという可能性の存在を示唆する。それゆえ、人は、現実に存在する世界を想像力を働かせながら見るとき、必然的に現実世界を批判的に見ているのである。想像した社会を現実のものにしようとするとき、人は革命に従事…
口当たりの良い、薄味の展覧会。趣味の良い、と形容する人もいるかもしれないし、あえて反論はしないけれど、そのようなコメント自体が趣味の浅薄さを露呈しているのですよと皮肉の一つも言ってみたくなるところ。 会場に4カ所だったか、19世紀のいくつかの…
Duolingo を無料版でやっていると、いろいろと広告を見ることになる。いろいろとゲームをやったり、アプリを入れたりしてみている。 広告に出てくる漫画がいかにもな異世界のもので、逆に興味を惹かれて読んでみたけれど、そこで思い出したのは、2000年代ぐ…
翻訳語考。Remark を「コメント」と訳すのはいろいろとためらわれる。 しかし、辞書的には決して間違っていない。OEDは定義1に「Observation, notice; (now esp.) comment 」(初出1614)を挙げているし、それと関連のある定義4は「A verbal or written obse…
ハンス・ロスバウトはとにかく構築力が抜群に高く、バウハウス的なモダニズムとでも言おうか、機能性を徹底的に突き詰めることでそれを音楽性へと転化しているところがある。しかし、そのような構築性を担うのは、きわめて生々しい、抒情的な(しかし、主観…
今年の演劇祭は、「2023年東アジア文化都市」の開催都市に選ばれた静岡県と連動しているため、東アジア(中国と韓国)からの招聘演目が中心だった。そのせいというわけではないと思うけれど、それぞれの作品のベクトルがひとつひとつ異なるため、単純な優劣…
20230506@毎日江崎ビル 『Woman with Flower』(演出:アン・ウィスク) 演劇祭公式ページではジャンルが「バーティカルダンス」となっており、そういうものがあるのかとググってみると、たしかにある。ふたたび公式ページの紹介によれば、「垂直にそびえる…
20230507@静岡芸術劇場 『Dancing Grandmothers~グランマを踊る~』(振付・演出:アン・ウンミ) 舞台の奥の壁に韓国の道を行く車の窓からの眺めが投影されている。特筆すべきものがあるようには見えない。道路沿いにある、ありふれた山や森。構図もアン…
20230506@駿府城公園 泉鏡花『天守物語』(演出:宮城聰) 前日行われた「伝統」についての広場トークで、宮城はたしか、「伝統とは歴史について語ることであり、歴史は死者について語ることである」というような趣旨の発言をしていた(わたしの記憶違いで…
20230505@楕円堂 『パンソリ群唱』(演出・作・音楽監督:パク・インへ) 済州島に伝わる神々についての民話を題材にした創作劇と言っていいのだろう。「家の神々の起源譚」とのことだが、それはいわば種明かし的なオチであって、メインとなるのは家族の離散…
「真の恋は、心と心」(泉鏡花『天守物語』) 言葉の響きが面白い。 ローマ字にするとはっきりするけれど、「お」の音が多い。 shi n no ko i ha ko ko ro to ko ko ro というか、後半は「お」しかない。 前半も、「い」でサンドイッチされている部分は「お…
20230503 『XXLレオタードとアナスイの手鏡』(演出:チョン・インチョル、作 パク・チャンギュ@静岡劇術劇場 社会派な題材をシリアスな仕方で、しかし、エンタメ的な完成度を犠牲にすることなく具現化した作品。そんなふうに語ってみたくなる作品だった。 …
202304029/30 『ハムレット(どうしても!)』(オリヴィエ・ピイ演出)@有度 シェイクスピアの『ハムレット』の上演であると同時に、『ハムレット』についての言説の表象であり、劇場と演劇とは何かという哲学的な問いを提起し、それをパフォーマンスとし…
きわめてアヴァンギャルドな舞台。というか、ポストモダンなキッチュと言いたくなるほどに、反解釈なパフォーマンス。 大澤真幸のプレトークによれば、カフカの「田舎医師」や『城』をコラージュ的にサンプリングしているとのことだが、たしかにきわめてカフ…
20230506@静岡市歴史博物館 家康アンド家康アンド家康プラス近代静岡史。印象としてはそんな感じ。印象としては、と言うのは、実際のところはちょっと違うから。家康率はおそらく半分行くか行かないかぐらいで、駿府=静岡という場の歴史がもう半分を占めて…
外国語学習アプリDuolingoでロシア語の学習を初めて100日が過ぎた。最低でも1日15-30分はやるようにしているけれど、初級文法のカバー具合という意味ではまだ全然。というよりも、Duolingoは文法を体系的に教えるのではなく、ひたすら用例をとおして学んでい…
翻訳語考。英語では何かを列挙するとき、最後の項目のまえに and や or を置くのが慣習化している。A, B, and C のように。むかし、たしかマーク・ピーターセンの『日本人の英語』で、and を入れないと、「それ以外にもまだ候補はある(もうここまでにするけ…
翻訳語考。「人」なのか「族」なのか。リーダーズ/リーダーズプラスを引くと、Aryan は「アーリア人」だが、Semite は「セム族」になる。20世紀前半のイギリスにおける人類学の重要な業績のひとつであるエドワード・エヴァン・エヴァンズ=プリチャードの T…
スマートでスタイリッシュになってしまったグローバルな現代のオーケストラから、こんなにも濃厚な音を引き出せる指揮者がいまだに存在しているとは思わなかった。弦楽器の音が生々しい。倍音よりも実音が鳴り響いているかのよう。蒸留された上澄みだけでは…
読んだのは数か月前。何か書き留めようと思っているうちに時間が過ぎてしまい、いまさら感があるが、いちおう書き付けておこう。 謙虚さと傲慢さがないまぜになっているように感じる。 一方には、間違うことを恐れずに、手持ちの知見をよりどころにして、積…
「地球上には海面水位を65m、つまり20階建てのビルの高さほども上昇させられるだけの氷がある。」(シュテファン・ラームストーフ「温まる海洋と上昇する海」83頁) 名だたる学者やジャーナリストが寄稿した本書は気候変動をめぐる科学的、歴史的、経済的、…
近隣の図書館で借りてきたジョン・ボウカー『世界の宗教大図鑑』は、カラー図版がふんだんに入っており、読むというよりも、眺めるほうが向いているだろう。350頁はそこまで厚くはないが、ハードカバーで、ページにかなりしっかりした紙を用いているため、ず…
翻訳語考。Union を「連帯」と訳すのは踏み込みすぎだろうか。Labor union や trade union のような組み合わせなら「組合」とするのが妥当だけれど、a union of all men のような<集合>としての union はそれだとあまりにも色が付きすぎる感じもするし、そ…
20230322@静岡県立美術館 「近代の誘惑——日本画の実践」は「日本画」というジャンルや概念それ自体を問う、なかなか挑戦的な展覧会だった。日本画は西洋との遭遇のなかで、参照項でもあれば、対峙すべき対象でもある洋画との関係のなかで、自己定義を重ねて…
東海大学海洋博物館(水族館と海洋研究関連の展示)が今日で一般公開を終了するというので来てみた。予想以上に充実した内容だった。閉館を惜しむ声が多数上がっているのはよくわかる。隣りにある自然史博物館(静岡県の地質的成り立ちと恐竜の展示)はやや…
まったく前情報なしで観た結果、「そうか、そういう映画なのか」と思った。宮城リョータの物語としての山王戦。 たしかに漫画版は桜木花道が主人公であり、彼の成長物語だった。赤髪の地毛のわりに内向的な性格の不良である桜木は、惚れっぽいがフラれてばか…
いちおう行くかというぐらいの気持ちで行ったけれど、この展覧会はどう捉えたらいいのだろう。東海道をめぐる「美術展」としては正直物足りないが、「歴史資料」の展示と見るなら悪くない。しかしキュレーターの意図はどうやら前者にあるようで、そこがどう…
『RRR』を観る。これは危険なエンターテイメント映画だ。 1920年代の英国統治下のインドが舞台。主人公となるのは二人の男。ひとりは、インド総督の妻の気まぐれで奪われた妹エッリを取り戻そうとするゴーント族のビーム。もうひとりは、英国統治下のインド…
あまり期待もせず、あまり前情報も入れず観たが、とてもよい映画だった。どこかのシーンがとびぬけてよいわけでもないし、何か突出したものがあるわけではない。淡々と進んでいく家族の物語だ。にもかかわらず、観終わったあと、しみじみと「よい映画を観た…
静岡大学翻訳文化研究会が主催する講演会が無料だったので聞きに行く。講演者は小説家の平野啓一郎。演題は「多言語の中の日本小説」。 会場である静岡県男女共同参画センター「あざれあ」は、思ったより駅から離れていた。「男女」と掲げているけれど、比重…