2019-01-01から1年間の記事一覧
「「つまり人生はゲームなんだみたいなことを、ずうっと話されていました。はい……はい先生、そのとおりです。よくわかっています」/ゲームときたね。まったくたいしたゲームだよ。もし君が強いやつばっかり揃ったチームに属していたとしたら、そりゃたしか…
一般市民の果たすべき義務と責任についての倫理的問いかけ 倫理的に考えれば騙す方が悪い。しかし、だからといって、騙された方に責任がないわけでもない。騙された方が責任を問われないわけではない。とくにそれが個人同士の事柄ではなく、国全体を巻き込む…
イデオロギー的にも心情的にも、理性的にも感性的にも、山本太郎の言っていることに大いに賛同していいはずであるにもかかわらず、彼の語る言葉にたいしてうまく言葉にできない微妙なひっかかりを感じてしまう。なぜなのかと自分でも不思議に思う。だからこ…
20190710@静岡県立美術館 ミイラの鉱物性と樹木性 体育坐りをするかのように膝を両手で抱きかかえたままミイラ化した女性。のけぞった頭のせいでむき出しになった顎の下のくぼみは老木の節のようである。肉が乾き、骨を覆うだけになった皮膚は黄ばんだ和紙…
探偵だと思っていたのにいつのまにか追われる方になっていた、操っている方だと思っていたらいつのまにか操られる方になっていた。いつのまにかエージェンシーが侵食され、他人の駒を演じさせられていることに気づいてしまう。自分が主役の現実世界の話なの…
フェミニストじゃなくていい人なんてひとりもいない タイトルがすべてを語っている。「男も女もみんなフェミニストでなきゃWe Should All Be Feminists」。ナイジェリアの小説家アディーチェが2012年にTEDxEustonで行ったトークの加筆版である本書は、100頁…
閉じた本まで開いた本として読んでいる。本の不在も開いた本として読んでいる。(アルチュセール、フランカへの手紙、1964年2月2日、77頁) アルチュセールはマルクス本人が自ら語ろうとはしなかった「マルクスの哲学」を分節しようとしたが、市田良彦もまた…
青年期の男の物語、または狂気に隣接する愛の憧れのもどかしさ スコット・フィッツジェラルドの長編第2作『美しく呪われた人たち』(1922)は、フィッツジェラルドがつくづく青年期の白人男の決して充たされえない愛の物語を書いたのだということを思わせず…
希望のクロニクル 希望のクロニクルを書くこと。ソルニットがポスト911時代のなか自らに課した仕事を、そのように性格づけてみてもいいかもしれない。ソルニットはテロから戦争へという暗く暴力的な時代に突入するなかにあって、非暴力的な希望の可能性を、…
ヒトの可塑性 サラ・ブラファー・ハーディーは霊長類学者としてインド北西部でサルの一種であるハヌマンラングールの調査を行ない、雄ザルによる子殺しが、繁殖集団の外からやってくる雄ザルによる仕業であること(子ザルを殺すことで雌ザルを繁殖可能な状態…
特任講師観察記断章。「みなさんは自分の英語がどれくらい知性的なものだと思いますか? みなさんは中高とおして少なくとも6年以上は英語を勉強している。そしていまは大学生です。にもかかわらず、日本語でならどうにか出来なくもないはずの、社会問題につ…
20190616@静岡シネ・ギャラリー 変奏曲として、または多面性の表象 バッハの『ゴルトベルク変奏曲』の「アリア」がクレジットの入りとともに流れ出すとき、わたしたちは、このドキュメンタリーが変奏曲のようなものであったことに気がつく。同一主題の差異…
「亡父にて候し者は、五十ニと申し五月十九日に死去せしが、その月の四日の日、駿河の國浅間の御前にて、法楽仕り、その日の猿楽、殊に花やかにて、見物の上下、一同に褒美せしなり。凡その頃、物数をば、はや今の初心にゆづりて、安き所を少な少なと、色ひ…
重なり合う糸、閉じない端 無関係にみえた人びとが言葉をめぐる冒険をとおして撚り合わされていく。しかし、言語の冒険物語は、決して大団円にはたどりつかない。糸はほどけ、突如として断ち切られる。 それは、多和田の小説が解決をめざしていないからだろ…
ポスト・ヒューマン いまひとつよく理解できないでいるのだが、ハーマンが「非唯物論 Immaterialism」という言葉で名指そうとしている思想は、ポスト・ヒューマン的なものであると言っていいような気はしている。人間というカテゴリーが完全に抜け落ちるわけ…
20190512@常葉大学静岡草薙キャンパス 向こう側がどう感じているか コンセプトは決して悪くない。「向こう側」がどのように感じているか、真摯に知ろうとすること、それは重要なことだ。フェミニズムによって女性の社会的権利は拡大し、男女のあいだの不平…
20190609@静岡芸術劇場 spac.or.jp 純粋な高揚感、または内容と強度 宮城の演劇が観客に与えるのは、感動というよりも高揚だ。身体的でもあれば精神的でもある高揚。もしかすると魂の高揚と言ってしまっていいのかもしれない。高揚であって感動でないのは、…
自閉圏の人びとのユニークな感性と知性 もし自閉症的なもの――「自閉圏のautistic」と著者が呼ぶもの――がスペクトラム的なものであり、欠損や欠如ではなく、差異でありグラデーションのように連続的なものであるとしたら、それはたしかに「認知特性」と考える…
人種差別的と思われたくないから人種差別主義者をも受け入れるという倒錯 ミシェル・ウエルベックが『服従』で描き出した問題は、ダグラス・マレーにしてみれば、ヨーロッパの自死の核心にあるものらしい。「左右両方のエリート政治家たちが「人種差別主義者…
特任講師観察記断章。ジェンダー二進法にからめとられないように話すこと。「彼」というところを「彼や彼女」とするだけでも微妙に文字数が増えるし、「○○な人たち」というのを機械的に「彼ら」とは受けずに「○○な人たち」と繰り返すのは冗長だ。限られた授…
民主主義の主要な概念の一つである「市民」はフェイスブックのアカウントとは違う。市民は、個人の持つ属性とは無関係に、絶えず政治社会を構成する他のすべての市民と結びついている。そして、社会における権利を持ち、同時に義務を負っている……フェイスブ…
特任講師観察記断章。「真面目に聞けとは言わない。そこまでは言わないけれど、真面目に聞いているフリはできるようになってほしい。興味をもって熱心に聞くというのが最上なのは言うまでもない。興味がないから攻撃的につまらなさそうに聞くというのも大学…
特任講師観察記断章。自分のスピーチパターンを自己検閲する。いま英語で話そうとすると、かなり自然に言葉は出てくるけれど、それは要するに、使えるレパートリーが限定的だから、選択肢の幅が狭く、迷う必要が少ないだけでもある。だからだろうか、英語で…
二人称で書かれた不思議な小説。読者を強制的に、しかし威圧的ではないかたちで、物語世界の住民のひとりにしてしまう手法は、たしか、イタノ・カルヴィーノがどこかで試していたはずだがーー『冬の夜ひとり旅人が』だっただろうかーー依然として新しく、依…
20190525@静岡市美術館 まるみ、しなやかさ、つよさ まるみをおびた線。円い顔、丸い頬。弱いわけではない。かよわいわけではない。柔らかく、しなやかで、すべてをやさしく受け入れてはきちんと跳ね返す。不思議な強さが宿っている。 小倉遊亀は戦後わりと…
平等「から」始める 知性と感性の平等というランシエールの議論の根本にあるテーゼは、考えるほどにわかりづらくなる。ランシエールにとって、知性と感性の平等は出発点であり、到達点ではない。不平等を存在論的な事実=真実として受け入れてしまえば、平等…
特任講師観察記断章。英語の音の連結や脱落のルールを教えるのはそれほど難しくないが、実践させるのはなかなか骨が折れる。 たとえば、どうすればNot at allが英語らしく響くか。Not/ at/ allという三つのブロックのあいだがつながる――子音で終わり母音で始…
「動物の目は偉大な言葉を語る言葉を持っている。動物は、その鳴き声や動作の助けをかりず、ただ目の力だけに頼るとき、自然から授かった自分の肉体の神秘や、生成の不安をもっともはっきりと示すものである。こうした神秘を知り、またわれわれにむかってそ…
""At present I would prefer not to be a little reasonable," was his mildly cadaverous reply." (Melville. "Bartleby.") 「「いまはすこし理にかなった感じでないほうがいいような」というのが彼のまったりと死体じみた返答だった。」(メルヴィル「バ…
20190506@静岡芸術劇場 歓喜にいたるには死を経験しなければならない、しかしそれは自分のものよりもはるかに痛ましい他の人の死なのだ、あなたの愛した人の死があなたを狂気の淵につれていく、しかし歓びは狂うことではない、狂うことのなかに歓びはない、…