うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。practical は practice の形容詞系なのだろうか。または、「的」の問題。

翻訳語考。practical は practice の形容詞系なのだろうか。そのとおりではあると思う。しかし、では、practice を「実践」と訳せるからといって、practical を「実践的」と訳していいものだろうか。 フランス語の pratique ならそれもありかなと思い、仏和…

最後までロックに、アグレッシヴに:エマーソン四重奏団のアメリカ性

音響のごまかしが一切効かなさそうな NPR の Tiny Desk Concert でこれほどの精度の演奏を繰り広げるのにはまったく驚かされる。そして、これほどまでにアグレッシヴさを、50年近くにわたる活動の最後まで保ち続けたことに心を打たれる。 視覚的情報に頼るの…

翻訳語考。「From each according to his ability, to each according to his needs」の訳し方。

マルクスの『ゴータ綱領批判』で使われていること有名な「Jeder nach seinen Fähigkeiten, jedem nach seinen Bedürfnissen!」というフレーズがある。スタンダードな英訳は「From each according to his ability, to each according to his needs」だろうか…

翻訳語考。All の別の訳し方、「つねに」または「例外なく」。

翻訳語考。All を、量的な「すべて」ではなく、時間‐頻度的な「つねに」や、条件的な「例外なく」にすり替えることは、どこまで許容されるだろうか。 All redistributive reforms face this challengeは、素直に訳せば、当然ながら、「あらゆる再分配的な改…

20240130 Duolingoでのロシア語学習が1年突破。

Duolingoでロシア語を勉強し始めて1年が過ぎた。何が身に付き、何が身に付いていないのかを、ざっと書き出してみる。 +初級文法はおおむね理解した。格変化をすべてきちんと覚えたとは言わない。動詞の完了体(動作が完結し、その影響が現在も続いている)…

翻訳としての書く行為(ル=グウィン『世界の果てでダンス』)

「翻訳というのは実に謎めいています。いよいよ私は書くという行為そのものが翻訳である、あるいは他のいかなるものよりも翻訳のようなものであると感じるようになりました。もうひとつのテクスト、オリジナルは何でしょう? 私は答えを持ち合わせていません…

文体はリズム(ウルフからヴィタ・サックヴィル=ウェストへの手紙)

「文体はとても単純な問題です。すべてはリズム。いったんリズムをつかんだら、間違った言葉を使うなんてことはありえなくなる。でも、そうは言いつつ、朝も半ばすぎているのに、わたしはここに座っている。アイディアやヴィジョンなんかが頭に一杯詰まって…

抵抗と変化(ル=グウィン『私と言葉たち』)

「本は単なる商品ではありません。利益追求という動機は、芸術の目標とは嚙み合わないことがしょっちゅうです。私たちは資本主義社会で暮らしています。資本主義的な力からは逃れられないように思われます。けれど、王の神授の権だってそうだったのです。ど…

個人的にして社会的な生、または資本主義と共産主義のジンテーゼとしての兄弟愛の国(M・L・キング「ここからどこへ行くのか」)

「私の理解では、マルクスはヘーゲルを十分踏まえていない。(「分かった」)彼はヘーゲルの弁証法は取り上げたが、彼の唯心論と精神主義は取り除いた。そしてマルクスはフォイエルバッハという名のドイツ哲学者を取り上げて、その唯物論を自分が「弁証法的…

動物の他者性、異質性と結びつくこと(ル=グウィン『いまファンタジーにできること』)

「わたしたちは孤立すると気が狂う。わたしたちは社会性に富む霊長類だ。人間には属することが必要だ。お互いに属すること。もちろん、それが第一だ。けれども、わたしたちは遠くまで見ることができ、賢く考えを巡らすことができ、大いに想像することができ…

子どもが読む本を真面目に受け取る(ル=グウィン『いまファンタジーにできること』)

「子どものために書かれたから、あるいは、子どもが読むからという理由で、本をまじめな考察の対象から外し、投げ捨てるというのは、反知性主義的な野蛮な行為にほかならない。」(ル=グウィン、谷垣暁美訳「批評家たち、怪物たち、ファンタジーの紡ぎ手た…

想像力による文学の問いかけ、または戦争以外の可能性(ル=グウィン『いまファンタジーにできること』)

「(年齢にかかわらず)成熟していない人たちは、道徳的な確かさを望み、要求します[…]彼らは勝つ側にいると感じたいのです。少なくともそのチームの一員だと思いたいのです。彼らにとって、ヒロイック・ファンタジーは、倫理的な明快さを感じさせてくれる…

必然性の国を基礎にしてのみ開花しうる自由の国(マルクス『資本論』第3巻)

「自由の国は、実際、窮迫と外的合目的性とによって規定された労働がなくなるところで初めて始まる。したがって、それは、事柄の性質上、本来の物質的生産の領域の彼方にある。未開人が、彼の欲望を充たすために、彼の生活を維持しまた再生産するために、自…

人間と世界の人間的な関係、または Can't Buy Me Love(マルクス『経済学・哲学草稿』)

「人間が人間として存在し、人間と世界との関係が人間的な関係である、という前提に立てば、愛は愛としか交換できないし、信頼は信頼としか交換できない。芸術を楽しみたいと思えば、芸術性のゆたかな人間にならねばならない。他人に影響をあたえたいと思え…

自分以外のために(野田サトル『ゴールデンカムイ』)

「自分のためだけなら簡単に諦めが付く/何かのためなら命をかけて戦える」(野田サトル「第296話 武士道」『ゴールデンカムイ』)

翻訳語考。equal は「平等」か「対等」か。

翻訳語考。equal は等号記号の「=」であり、数字的な意味での「同量」——twice 3 is equal to 6——を表すが、同時に、ひとつずつ足し合わせてピッタリ同じというよりも、トータルな意味での「同等」——we are equal——の両方をカバーしているように思う。つまり…

精神の力としての自由(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

「自由な人たちの都市をつくることはできよう。だが、無知な者にとって、自由にどんな意味があるのか? 自由とは、自分に何が必要かを学び、自分にとって何が好ましいかを考える精神の力にほかならない。たとえ体が鎖につながれていても、頭の中に、哲学者た…

恐れている対象を軽蔑することの後ろめたさ(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

「恐れている対象を蔑むこと、不当な見方だと知りながらその見方を選びとることに、甘ったるい自己嫌悪をほんの少し感じた。」(ル=グウィン『パワー 西のはての年代記III』)

翻訳語考。「生きづらさ」は翻訳できるのか。

「生きづらさ」というワードに、英語を教える者として、引っかかるものがある。どのような英訳が妥当かが、いまひとつわからないのだ。「hard to live」は違うような気がするし、そもそもこれだと名詞化できない。かといって「difficult」を使って、「diffic…

よく知っているつもりの土地のなかのまだ見ぬ世界(ル=グウィン『ヴォイス』)

「よく知っているつもりの土地でも、行っていない町や丘が必ず残っているし、まだ見ぬ世界がなくなるなんてことはありえない」(ル=グウィン『ヴォイス 西のはての年代記II 』) And even if you know a land well, there’s always a town or a hill you ha…

沈黙という裏切り(エルンスト・トラー『ドイツの青春』 )

「誠実であるためには知らなければならない。勇敢であるためには理解しなければならない。公正であるためには忘れることは許されない。野蛮の軛が締めつけるならば、戦わねばならず、沈黙してはならない。このような時代に沈黙する者は彼の人間的使命を裏切…

20231209@静岡音楽館AOI 濱田芳通指揮、アントネッロ、モンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』を聞きに行く。

20231209@静岡音楽館AOI濱田芳通指揮、アントネッロ、モンテヴェルディ『聖母マリアの夕べの祈り』 宗教を信じない者が西欧クラシック音楽の本丸とも言うべき宗教曲を聞くことの矛盾を、昔からずっと感じていた。だから、いわば世俗的な人間劇を前面に押し出…

叙事詩が語らないこと(ル=グウィン『ヴォイス 西のはての年代記II 』)

「わたしはいつも不思議に思っていた。創り人たちはどうして家事や料理を物語から締め出すのだろうと。偉大な戦いは、そのためにこそ戦われるのではないのか──一日の終わりに、安らぎに満ちた家の中で家族が一緒に食事をするためにこそ。国を離れることを余…

貴族性を内面化する(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』)

「自分の夢や最も親密な欲望を、王侯貴族として高みから扱うこと……。それらに気づかないような心の繊細さを持つこと。私たちの存在のうちにおいて自分だけではなく、別の者がいることを理解し、私たちが自分の証人であり、それゆえ、自分にたいしてあたかも…

メディアと変換と翻訳(キットラー『書き取りシステム 1800‐1900』)

「皆さんから[私の方法の]正しい理解を引き出すために、とりわけお願いしたいのは、私たちの口というものを、その様々な要素もろともに、言語と総称されるある種の意味豊かな楽音を奏でることができるような、一つの楽器と見なしていただきたい、というこ…

軽蔑の高貴な術(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』)

「すべてを軽蔑せよ。だがこの軽蔑によって窮屈にならないように。軽蔑によって他人に優るなどと信じるな。軽蔑の高貴な術のすべてはそこにある。」(フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』318頁)

殺しはするが、卑しめることはない(ルクリュ『新普遍地理学』9巻)

La plupart des tribus n'ont jamais eu d'esclaves: c'est un crime pour l'Afghan que de « vendre des hommes »; il les tue, mais ne les avilit pas. (Reclus. Nouvelle géographie universelle. vol. 9, 62) Few of the tribes have ever had any slav…

好意をつくりだす(ル=グウィン『ギフト 西のはての年代記I 』)

「母は人に対して警戒心をもつのが苦手だった。警戒心は母の性格にふさわしくないものだったからだ。母は好意のないところに好意を見ることによって、しばしば好意をつくりだしてきた。館の人々は喜んで母に仕え、母とともに働く。母に対しては、気難しい農…

20231201 アリックス・パレ『魔女絵の物語』(グラフィック社、2023)を読む。

魔女絵には、若き美女と、醜い老婆の、ふたつの系譜があるという指摘にまずハッとさせられるが、読み進むほどに、はたして両者を「魔女」というワードでくくることが妥当なのだろうかという気もしてくる。本書は西洋美術における魔女表象を、100頁ほどのコン…

20231123 「『ばらの騎士』サロン 制作部座談会」に行ってきた。

20231123@静岡芸術劇場「カフェシンデレラ」 「『ばらの騎士』サロン 制作部座談会」に行ってきた。「制作部」というのが、そもそも、いまひとつよくわからない。「文芸部」もわからないといえばわからないけれど、こちらはなんとなくながら、SPACの芸術的な…