うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考

翻訳語考。「連帯」のいかがわしい響き。

翻訳語考。「連帯」のいかがわしい響き。「連帯」という単語になにか引っかかりを覚えていて、なぜなのだろうかと思っていたのだけれど、その理由のひとつは日常的な用法というか自分の記憶のなかにある実際の用法がきわめて抑圧的な響きを持っているからで…

翻訳語考。「他者からのウィルスの獲得」?

このNYTの記事によると、アメリカ疾病管理予防センター(the Center for Disease Control and Prevention)はマスク使用についてのガイドラインの修正を検討中らしい。非感染者がマスクによって感染を防ぐことはできないけれど、無症状の感染者が知らず知ら…

翻訳語考。Social distancingは「人ごみを避ける」か?

翻訳語考。Social distancingの適切な日本語訳は何だろうかとふと考えてしまう。「人ごみを避ける」という訳がおそらくもっとも自然だろうし、この表現が広く使われているように思う(social distancingの訳語として使われているのかどうかはわからないが)…

翻訳語考。ルビという訳者の傲慢。

翻訳語考。ルビは訳者の傲慢だろうか。去年訳したものは、学術書よりの思想書だったから、あえて大量のルビを入れこんでみたけれど、ページがやかましくなりすぎた。ルビは日本語の特権であり、存分に生かすべきものだとは思うが、濫用すべきではない。 ルビ…

翻訳語考。-ism/-ist。

翻訳語考。-ism(名詞「~主義」)の派生形である-ist(名詞「~主義者」/形容詞「~主義の」)をどう処理したものか。もちろん、-istが名詞で使われている場合は、「~者」にすればよいだけだから、何も問題はない。だが、-istが形容詞で使われていて、か…

翻訳語考。単数形のthey。

Theyをジェンダーニュートラルな3人称の代名詞として使うことは、重層的な問題をはらんでいる。代名詞の用法の問題には収まらないさまざまな文法的問題が含まれているし、それをさらに、社会的なものが横切っていく。 まず、英語は、フランス語やドイツ語と…

翻訳語考。長い日本語の文を書くために。

翻訳語考。長い日本語の文を書くにはどうすればいいか。 西洋語にはコロンやセミコロンがあり、ダッシュがある。西洋語のほうが区切りのギアが細かい。プルーストの文章は長い長いと言われるけれど、あの長文はコロンやセミコロンによって可能になっている部…

翻訳語考。修飾語の距離。

翻訳語考。日本語の修飾語は距離に依存する部分がとても大きいと思う。単語をまたいで形容詞をかけることが難しい。「specific conflicts of class interests」を「特定の階級利害の衝突」としてしまうと、おそらく大多数の人が、「特定の階級利害/の衝突」…

翻訳語考。配置の問題。

翻訳語考。「世界を個体性の百花繚乱の実践の実験に転化する主体と客体の統合を投射する」。翻訳はつきつめていくと配置の問題になるのではないか。単語や句読点の位置までオリジナルと呼応させるというような逐語訳が狂気の沙汰であるのは当然だが、オリジ…

翻訳語考。Theyを彼らとしないこと。

翻訳語考。Theyを彼らとしないこと。これは実はかなり骨が折れる。もちろん日本語にするだけでよければ簡単だ。しかし、しまりとしなりのある訳文にしようとするなら、パズルゲームじみてくる。主語だけならまだいい。しかし目的語themや所有格のtheirもある…

翻訳語考。「アンガージュマン」。

翻訳語考。「アンガージュマン」というカタカナ語をいま使ってもいいものか。かつては翻訳語として流通していたし、サルトルや実存主義が喧しかった時代にあっては、そこに輝かしいオーラがただよっていたことだろう。だが2010年代にこれをカタカナ語として…

適当比較日本語論。「○○なんだけど」という面白い言い回し。

適当比較日本語論。「○○なんだけど」というのはとても面白い言い回しだ(文例。「あれ超ヤバいんだけど」)。他者に同意を求めているようで自己完結している。「けど」は逆接を思わせるが、ここに否定の主節が加わることはない(「一見○○に見えるけれども、…

翻訳語考。前置詞の問題。

適当日本語比較論。西洋語で話し書くことの困難さは、つきつめれば、冠詞と前置詞の問題に集約されるのではと思えてきたこの頃。名詞、形容詞、動詞、副詞については辞書を調べまくり、ひたすらググればなんとなく納得できる。しかし、前置詞についてはいま…

翻訳語考。冠詞の問題。

適当日本語比較論。複数形にもまして厄介なのは冠詞の問題だ。いまだに苦戦しているし、こればかりはどんなに辞書を調べても確信するまでには至れないでいる。それにしてもなぜ日本語には冠詞がないのだろう。いや、むしろ、なぜ英語(フランス語ドイツ語イ…

翻訳語考。字義的に翻訳できないところ。

適当日本語比較論。少し日本語をたしなむ友人と小津の『秋刀魚の味』を見ていて、「なんだい?」っていうのはどういう意味だと尋ねられ、「だい」という日本語ならまったく何でもない二文字が字義的に翻訳できないことに気づかされた。そしてよくよく考えて…

翻訳語考。冠詞の問題、数の問題。

適当日本語比較論。西洋語をすこしでもかじったことがある方なら冠詞の問題の厄介さをよくご存じだろう。それと近いところで単数複数の問題があると個人的に思う。日本語は数量表現について無頓着すぎるともいえるし(全般的な意味で)、こだわりすぎるとも…