うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。修飾語の距離。

翻訳語考。日本語の修飾語は距離に依存する部分がとても大きいと思う。単語をまたいで形容詞をかけることが難しい。「specific conflicts of class interests」を「特定の階級利害の衝突」としてしまうと、おそらく大多数の人が、「特定の階級利害/の衝突」というふうに読むのではないか。だからそれを英語に再翻訳すれば「conflicts of specific class interests」となってしまう。「階級利害の特定の衝突」とすれば良いだけの話ではあるが、これは個人的にこなれていない感じがするし、微妙な違和感を覚える。「特定の階級利害衝突」とすれば「衝突」に「特定」がかかるが、字面が黒くなりすぎて読む方は息が詰まってしまうだろう。意訳して「階級利害の具体的な衝突」としたいがーー文脈的にここで言っているのは、何か漠然とした衝突ではなく、ある特定のイシューをめぐって、特定の人々が現実にぶつかり合う、ということだからーーこのテクストでは「具体的にconcrete」がキーワードに近いかたちで使われている箇所があるので、ベストではない。「Specific」を「階級利害の衝突」というフレーズの頭に置き、かつ、それが「階級利害」をまたいで「衝突」と結ばれていることを読み手に直感させるには、「衝突」にはぴったりくるが「階級利害」のほうにはハマらない形容詞を見つけなければいけない。最近翻訳するさい類語辞典を大いに参照している。それも日本語だけではなく、英語のほうでも使っている。たとえば「特定」の類語を探すだけではなく、「specific」の類語を探し、その日本語訳を探し、さらにその類語を探すというようなやり方だ。これはかなり手間がかかるし、時間もかかる。そしてその労苦に見合う結果が出ることがあまりに少ないので徒労に終わることが多い。実際、今回はうまくいかなかった。「階級利害の特定の衝突」にしておこう。