うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。publicとsocialの違い。

翻訳語考。publicとsocialの違いが、どうもしっくりこない。どちらもラテン語を語源とする言葉だ。publicはpeopleに、socialはsocietyやassociationに通じるわけだから、当然、publicのほうが指示範囲は広い。publicがとある共同体の人々全員をカバーするとしたら、socialはその共同体のなかの特定の集団に属する人々にしか当てはまらない。

しかし、ここにprivateという別の項を導入すると、ごちゃごちゃしてくる。publicとprivateは対立する。誰にでも開かれている pulbicなことと、特定の人々にしか開かれていないprivateなこと。publicがinclusiveでなければならないように、privateはexclusiveであるべきものだろう。

では、privateとsocialの関係はどうなるのか。図式的に名詞=形容詞のペアを考えれば、individual = private、society = social、public = publicとなるわけだけれど、public sectorとprivate sector(「公的セクター」と「民間セクター」)のように、privateが「官」や「公」との対立で「民間」と訳されると、これらの単語群は一本の直線上には配置できないものであることが見えてくる。社会は官なのか民なのか。民は「わたくしごと」でしかないのか。

publicは、いってみれば、匿名的な全体性なのだろう。publicが単数形でしか使えないのは感覚的にわかる気がするし、societyのほうに複数形の用法があるのも理解できる。 socialがいわば、「人と人のあいだ」といった対人関係を意味する言葉であり、societyが、外側の輪郭というよりも、内側の成員の繋がりや結びつきというイメージを強く持つ言葉であるとしたら、privateのイメージは「なか」や「内側」ではないかという気もする。閉ざされた空間の内部でのこと。自分の部屋のなか。家のなか。その空間の中にいる人とは繋がっているかもしれないが、いない人とは切れている。

日本語の「公共」と「社会」では、このあたりのイメージをうまく分節できない気がする。少なくとも、publicの上からかぶせる感じと、socialの横で繋ぐ感じが出ないという印象が自分のなかにある。