うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。often の機械的置き換えとしての「しばしば」。

翻訳語考。often を「しばしば」とするのは、定訳というよりも、機械的な変換と言ってよいものではないかと思うのだけれど、日本語の文章でそれほどしばしば目にする言い回しでもないような気がする。すくなくとも、自分はあまり使わない表現だ。

にもかかわらず、原文で often を見ると、つい「しばしば」とタイプしてしまい、別の表現に置き換えられないかと悩んだ挙句、結局ひとまず「しばしば」で先に行き、直しの段階でも手を付けずに済ませることがしばしばある。

「頻繁に」を使ってみることもあるが、frequently とかぶるような気がして、躊躇する。ロングマンによれば、often は「if something happens often, it happens regularly or many times[何かが often に起こるとすれば、それは定期的に、または何度も起こる]」の意味。同義語としては frequently が挙がっている。

ロングマンの解説によれば、日常的には frequently ではなく often や a lot が使われるとあり、意味の違いではなく、用法の違い――フォーマルかそうでないか、書き言葉かそうでないか――であると理解してよさそうではある。

語源的にはゲルマン系。古英語の oft に、中英語の selden(seldom、稀に)との類似で n が付いて、often になった模様。たしかにドイツ語には oft という単語があり、英語の often に相当する(ちなみに、フランス語で often に相当する souvent ラテン語由来で、subinde(sub + inde、後に+すぐ)の意味が変化したものだそうだ)

同じくWikitionary によれば、もともと t は発音されていたが、listenやglisten のように t を発音しないことが標準化されると発音されなくなったという経緯があるそうだ。だから、t を発音するのは綴りに引きずられてのことであり、伝統的な t 抜きの発音のほうが「より正しい(more correct)」であると多くの人々が考えれている、とある(とはいえ、ニュース系のポッドキャストでよく t ありの発音を耳にする)。

日本語にするうえで難しいのは、often に「回数」と「頻度」の両方のニュアンスがあるからだと個人的には思っている。また、これはperhaps/probablyのような「可能性/蓋然性」の言葉の訳しにくさとパラレルでもあると思う。どちらも、たしかに辞書的には意味範囲は画定可能ではあるとはいえ、依然として意味に幅のある語だから、話者がどのあたりを意図して使っているかを文脈から推測するという解釈作業が発生する。

翻訳者の類推が的外れになる危険を回避するために、または、類推するという面倒自体を避けるために、often を暗黙の了解的に「しばしば」に移し替え、類推は読者に委ねるというのが、多くの翻訳者がしばしば採用するやり方ではないかと思う。「しばしば」という、あまり使われないからこそ、わかったようなわからないような感じのする言い回しによって、良くも悪くも読者を煙に巻くことができる。

個人的には、「~はめずらしくない」を使えば、「頻度」と「回数」の両方を含意できるのではないかと思い、しばしば用いるけれど、これだと原文では肯定文であるものが、訳文では否定文っぽくなってしまうし、often の意味が強く出すぎるので、つねに使えるともかぎらない。