うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。訳し分けの難しい単語群(local と rural と regional)。

翻訳語考。訳し分けが難しい言葉群がある。たとえば local と regional と rural。どれも雑に言えば「地方の」と訳して間違いとは言えないものの、ニュアンスは異なる。それを的確に捕まえてくれる日本語がいまひとつ思いつかない。

このような場合に個人的にまず考えるのは、品詞変換が可能かどうかだ。それで言うと、local と rural は形容詞以外の形態を想像しづらい/できないけれど、regional については region のほうが優勢であると言えるかもしれない。

何と対をなすのかを考えるのも有用だ。それで言うと、rural に対応するのは urban(都会の)であろうし、rural に連なる rustic (田舎風の)を加味して考えると、rural には良くも悪くも、工業化されていない自然のイメージがある。悪く言えば、後進的な、未発展の、取り残された(left behind)なイメージが付きまとっている。

その一方で、local となると、もうすこし中立的である。Wikipedia によれば、「地方政府」の定訳は「local government」であるようだし、語源となるラテン語locus は place の意味であり、かならずしも「田舎の土地」を意味するわけではない。別の言い方をすれば、カタカナの「ローカル」がどちらかと言えば rural に近い意味を帯びがち——たとえば「ローカル線」のようなコンビネーションの場合——なのにたいして、英語の local はむしろ「地場の」とか「地元の」というような、その土地からの視点に寄り添うワードであると考えたほうがいいかもしれない。

これとの比較でわかりやすいのは、region だ。つまり、region と言うとき、そこでは、複数の region によって構成される全体が前提にあり、発展具合であるとか、中央と周縁といった序列化とは違う。「関東地方 the Kanto Region」はわかりやすい例だろう(local でもそのような全体は想定されてはいると思うけれど、region ほど絶対的ではないし、rural の場合、そこで対抗的に想起されるのは、全体ではなく、都心部だろう)。

(もうすこし付け足し。現在、local の対義語が global(世界的、惑星的)であるのは興味深い。「ローカル」は、national(国家的、国民的)に絡め取られることなく、「グローバル」なところとダイレクトでつながる想像力を宿している。)

ということを踏まえると、rural は「(都会にたいする)田舎の」、local は「地元の、地域の」、regional は「(全体にたいする)地方の」と訳し分けるのが妥当な気もするけれど、英語話者がそこまで首尾一貫したかたちでこれらの語を使い分けてはいないからこそ、一筋縄ではいかない。文脈的な通りの良さを優先すると、訳語は錯綜し、混線してしまう。

それでかまわないではないかとも思う。訳語の首尾一貫性は、原文を参照する読者にしかわからないことではあるし、翻訳を読む読者の大半は、日本語で読むために翻訳を参照しているのであって、原文を理解するための補助として翻訳を使うのは学者筋だけだろう。訳語を統一したいというのは、翻訳者の自己満足であり、学者筋に突っ込まれたくないという防衛的な態度かもしれない。

とはいえ、翻訳者として、気にはなる。気にしないわけにはいかない。模範解答が存在しないからこそ、悩む。