うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「闇の霧から立ち上がろうとする黎明の知性」(今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』)

「ソローは「歩く」のなかでこんなことを書いていた。知識の光はときに過剰である。そもそも日中の太陽の光は岩石や金属の組織を破壊させてしまうので、石や金属は夜の闇によってようやくみずからをもとの状態に回復させている。同じように、文化もときに過剰な理性の光によって破壊されることがある。だからこそ人間には夜の闇が必要なのだ。啓蒙の光を相対化し、光によって傷んだ組織を修復し、闇を否定的な無知や蒙昧から解放するための夜が。/その夜とは霧のことでもあり、文化のはざまに広がる空閑地のことでもある。耕されていない、矢尻の埋まる、茫洋とした謎におおわれた土壌のことでもある。ソローは、人間が耕筰されていないとき、すなわち文化にとっての夜を持つことの大切さを強調した。その夜から、その霧につつまれた森のはざまから、野生の知が曙光とともに立ち上がることを信じた。目覚めようと決意した人間によって、夜闇の霧から立ち上がろうとする黎明の知性――これこそが、ソローの考える知性の原風景であり、彼がサドルバック山の頂上での省察として希望を込めて書きつけたものの真の内実である。」(今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』269‐70頁)