交番に入ったのはもしかすると生まれて初めてのことだったかもしれない。落とし物を届けるために立ち寄ったのだけれど、それほど広くないスペースに4人もいて、そんなに人員が要るのかと反射的に思ったけれど、緊急事態、不測の事態に対応するためには、何があっても交番が空にならないシフトを組まなければならないということなのだろうか(そういえば4人とも男だった)。
最近よく利用しているレンタル電動自転車のかごに、かなり高価なイヤホンが残されている——しかも2つも!――のに気がつき、もしかしたら持ち主が戻ってくるかもしれないからそのまま放置したほうがいいのかもと思ったけれど、今夜以降雨になる。だから、なにか手を打った方がいいだろうと思って、電動自転車を予約するためのアプリを見てみるが、落とし物の連絡のような項目はない(このアプリはとにかく苦情を受け付けたくないのか、不具合のレポートがかなりやりにくい設計になっている)。
仕方ないので運営会社に電話すると、なんとも気のない返事。まあ、交番に届けてくれてもいいんですけどね、ぐらいのノリ。とはいえ、昨日、なかなか見事な偶然のめぐりあわせで今日の演劇のチケットが買えたということもあり、多少の善行をしておいてもよいだろうと思って、近場の交番に届けることにした。
なんとなく話には聞いていたけれど、落し物は、3ヵ月たって所有者が現れなかったら拾った者のものになるのですね。また、お礼を言うために、所有者が現れたときに電話番号を伝えるかどうかも訊ねられたけれど、どちらも拒否した。所有者が見つかったかどうかだけは知りたいところだけれど、警察としてそれはできないとのことだった。所有者が現れた時点でこの件は警察の手を離れるので関与できない、ということらしい。
というわけで、善行をしたのかお節介をしたのかわからないけれど、悪いことはしなかった。
ああ、そういえば、警察に拾い主の情報が残るというのは、何か微妙に理不尽な気もする。調書を作る必要上仕方ないのはわかるが、自分の個人情報が警察文書に残されるのは、ちょっと納得がいかない。