「「在日特権を許さない市民の会」は反近代的な運動と考えることはできません。もちろん彼らには、基本的人権を普遍的に尊重しようとする姿勢はほとんどみられませんし、人権の普遍主義には興味がないようです。しかし、彼らは、近代国家の領土性を尊重しています。つまり、在日朝鮮・韓国人は、日本国家の領土内においては外国人である以上、自分の本国に帰るべきであり、さらに、日本国家の領土内において永住する以上、全ての日本領土内の住民は日本人としての国籍をもたなければならない、というわけです。ここで、暗黙のうちに前提されているのは、次の原則であり、この原則はまさに福沢諭吉が「國體の情」を醸し出すための絶対条件と考えた「自他の別」にほかならないのです。すなわち、「外国人は自国人から区別され、差別されなければならない」……このように素描してみると、この市民運動が典型的な反移民人種主義であることがよくわかります。しかし、このように人種主義は、平等の原則を否定するどころか、むしろ国民の平等を謳い上げていて、むしろ、平等の条件としての閉じられた共同性としての「國體」を強調しているのではないでしょうか。私のみるかぎり……「在日特権を許さない市民の会」の人種主義は近代の日本の国民主義、さらには、近代の領土的国民国家主権を範型とする国際法のシステムの延長にあるのではないでしょうか。」(酒井直樹「社会正義と國體 ポール・スタンディシュに応える」『<翻訳>のさなかにある社会正義』)