うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

雑読記

20230216 谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない』123を読む。

1周回った「日本すごい」本とでも言おうか。谷本が念頭に置いている批判対象は、書名にあるとおり、世界のニュースを何も知らない日本人一般ではあるけれど、より具体的に言えば、左翼系のリベラルなメディアではないか。「欧米」という雑なくくりで、欧米の…

みんなに必要なジェンダー史、または歴史を学ぶことの愉しみ:弓削尚子『はじめての西洋ジェンダー史』(山川出版社、2021)

ジェンダー史を学ぶこと、それはわたしたちのジェンダー概念を問い直すこと、その起源や変遷をたどりなおすことでもあり、その意味で、歴史は現代における世界認識や世界理解に衝撃を与えるものである。 ジェンダー史は、女についてのもの(だけ)ではない。…

やわらかい知能、やわらかさという知能:鈴森康一『いいかげんなロボット』(科学同人、2021)

「孔子は「學則不固(学ぶことによって考え方や行動が柔らかくなる)」と言いましたが、彼らは「やわらかいものには知能が宿る」と捉えているのです。」(鈴森康一『いいかげんなロボット』119頁) キッチン用品でシリコン製のものがポピュラーになったのは…

ブルックナーの真実(田代櫂『アントン・ブルックナ――魂の山嶺』)

まさに魂のこもったテクスト。ブルックナーにたいする愛にあふれている。 しかし、ブルックナーを美化し、聖人に祀り上げるのは、著者のめざすところではない。本書は、一方においては、わたしたちのステレオタイプ的なブルックナー像を強化する。なるほど、…

ウィルソン夏子『エドマンド・ウィルソン――愛の変奏曲』『ガートルード・スタイン――20世紀文学の母』

ウィルソン夏子のテクストには独特の手ざわりがある。純粋な伝記としては、彼女の記述は粗いだろう。誠実ではあるし、的確ではあるが、厚くはない。 しかし、にもかかわらず、彼女の伝記は、電話帳のように分厚い伝記よりも圧倒的に鮮烈だ。それは、彼女が、…

フランシス・ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』、『道徳性の起源 : ボノボが教えてくれること』、『共感の時代へ 』

雑な読書メモを書いておこう。読んでいるテクストにたいする直感的で瞬間的な反応。テクストを正しく説明しているかどうかは気にしない。客観的な正しさではなく、主観的な気づきを記してみたい。 「忌まわしい過程は必然的に忌まわしい結果を生むという考え…

湯浅博雄『贈与の系譜学』(講談社選書メチエ、2020):西欧キリスト教世界における「贈与の系譜学」?

バタイユ/ブランショ/レヴィナスのラインで考えればそうなる(ニーチェからモース、そしてヘーゲル)のは当然だが、ネタがわかっている側からすると、このような贈与についての思索には、何番煎じかという印象を抱かざるをえない。それに、キリスト教精神…