うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「私は繊細さの領域をいっそう広げました」(J・M・ネクトゥー『ガブリエル・フォーレ 1845-1924』)

フォーレはまさに陶酔に近い喜びをもった中庸の音楽家なのであり、したがって、彼が伝えようとする深い内容やその哲学に気づくことなく、性急で注意を怠った聞き方をすれば、その音楽は優柔不断で単調なものにしか聞こえないであろう。/けれども、かつて一人の友人に、「私は繊細さの領域をいっそう広げました」、と打ち明けているように、フォーレはその才能の多少とも限られた範囲において、ほとんど空前とも言えるほど濃やかで洗練された一つの世界を造り出したのである。おぼろげな、物を通して柔らかに差しこむような光に対する嗜好、平凡さや有りのままの現実のもつ卑俗さを拒否しながら示される暗示的でぼんやりとしたものへの秘められた好み、明確で視覚的な指示を持たない「夜想曲」、「舟歌」、「即興曲」等の表題の常用等は、かなり明瞭にフォーレの世界を位置づけているが、その世界は、繊細さが常にわざとらしさに陥る危険性のある時に世紀末の美学がもたらす二面性をそなえた特質と非常な曖昧さを示しながら、象徴主義と従属関係で結ばれているのである。」(J・M・ネクトゥー『ガブリエル・フォーレ 1845-1924』249‐50頁)