うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

最高の共通意図の獲得(ワーグナー「未来の芸術作品」)

「芸術的人間は、ドラマのなかで自分とは異なる一個の人物を演じることによって、自己の特殊な存在を人間一般に通じる存在へと拡張する。自分とは異なる人物の個性を完全に理解して他人を演じるためには、芸術的人間は、自分の殻を完全に破らねばならないが、彼がこうした境地に到達するのは、他者や他の個性を通しての接触と浸透と補完を行うなかで、この一個人を――その個性のあり方そのものをも――できるだけ緻密に探究し、きわめて生き生きと知覚する場合だけである。その結果として芸術的人間は、この接触と浸透と補完を、自己の存在に即して共感をもって需要できるようになる。こうして完全な芸術的演技者は、自己の最高に充実した個性にしたがって類の本質へと拡張された個人なのである。こうしたみごとなプロセスの成就する空間が劇場の舞台であり、この空間が明るみに出す芸術的総合作品がドラマなのだ。しかし、この一つの最高の芸術作品において自己の特殊な存在を最高に開花させるためには、個々の芸術家も、また個々の芸術ジャンルも、全体の役に立たぬ季節外れの繁茂への恣意的で利己的な傾向を自己抑制しなければならない。こうすることでいっそう強力に最高の共通意図の獲得に寄与できるのだが、他方この意図は、個別的なものと、その一時的な制約なしには、まったく実現されえないのである。(ワーグナー「未来の芸術作品」204頁)