うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

20200101 Day 10 ギザの3大ピラミッド、またはピラミッドからの転落。

ギザの3大ピラミッドはやはり破格の観光地だろう。圧倒的な存在感がある。しかしその存在感に比例するように、客引きの執拗さも破格だ。ホテルを出た瞬間にタクシーの客引きが寄ってくる。「Cairo, Saqqara, Dahshur, good price」と声をかけてくるのはエジプト観光地ではよくあるけれど、その声が止まらない。断わっても断っても、壊れたプレイヤーのように同じ売り文句をエンドレスで繰り返しながら後ろをついてくる。しかも3メートルや5メートルぐらいではなく、10メートル30メートルぐらいついてくる。これにはさすがに辟易する。そしてやっとタクシーのドライバーを振り切ったかと思うと、別の勧誘が接近してくる。スカーフ売り、ラクダ業者、馬業者。

ホテル出てすぐのところ、スフィンクスの手前のところにチケット・オフィスの「分所 branch」がある。しかし見た感じは掘っ立て小屋のようなもので、うさん臭さがある。なるほど、荷物検査の装置はあるし、フェイクということはなさそうだが、ピラミッドのあるエリアに入る200EGPのチケットしかないと言う。ホテルに戻って確かめると、分所というのは本当らしいが、チケット・オフィスの本部はここからちょっと歩いたところにあるようだ。そこまで歩いていくことにすると、「遠いからタクシーを使ったら」とホテルの人まで言ってくる。しかしグーグルマップで見るかぎり2キロ程度。それはタクシーの距離だろうか。

チケット・オフィスの本部ではいくつかのチケットがひとまとめになってちょっと割引のチケットが売っていた。600EGPというのは、これまでエジプト観光をしてきて破格に高い。たしかに、入場料200、クフ王のピラミッド内部見学400、王の船博物館80、これにもうひとつふたつ入れる場所があったと思うので、600がかなりのディスカウントであるのは本当だけれど、200が上限だと思っていたので、クフ王ピラミッドの内部見学400はまさに観光地価格という気がする。600EGP=4200円ぐらいだろうか。

ピラミッドは砂漠のなかという固定観念があったが、実はかなり硬い岩盤のうえに建造されているらしい。たしかにピラミッドからすこし離れると砂地になるのだ、ピラミッドのすぐ周りの地面はひじょうに硬い。

クフ王のピラミッドの内部を登っていくのはかなり骨が折れる。どうにかすれちがえるぐらいの狭さの道だし、体を二つに折り曲げるようにして斜めに進んでいかなければならない箇所がある。這いつくばる必要があるわけではないが、運動不足には堪える。玄室まで行って、何か強い感慨があるわけではないが、重量を逃がすため(だと思うが、違ったか)に少しずつずらしながら積み上がっている天井や、斜めに直線に伸びる通路を見上げたり見下ろしたりすると、このようなものを4000年以上前に作り上げた土木技術に驚嘆するのは確かだ。ロンリープラネットは、たいして見るものはないが、それでもクフ王のピラミッドの中に入るのはunforgettableな経験であると書いていたけれど、うまい言い方だと思う。

ピラミッドから出てきて気が抜けたのか、足を踏み外し、2段ほど転落する。落ちながら「ああ、これはさすがにまずい、死ぬかな」と1段落ちてもう1段落ちかかたときにふと思ったけれど、2段目でうまく石に体を受け止めてもらえるかたちになった。右足を踏み外して落ちたらしく、そのときに左足内側が石のエッジでこすれたようで、左ひざ内側に4㎝ほどのすり傷が出来ていたが、服の上からのことだったので、血がうっすらとにじむ程度ですんだ。骨折や打ち身のたぐいもなく、所持品をなくしたり壊したりすることもなかった。悪運が強いらしい。とはいえ、新年そうそう経験したいことでもない。

ピラミッドエリア内もとにかく客引きがうるさい。興味深いのは、馬やラクダに乗せようとする業者の声の掛け方だ。「Hey China!」「Hey Japan!」というように、見た目であてずっぽうに話しかけてくるのだけれど、この「なあ、日本人」という第一声が客引き戦略として有効だと本当に彼ら(客引きは自分が気づいたかぎり100%男性)は信じているのだろうか。このセリフが馬のうえから投げつけられると、ひじょうに挑まれているような感じがする。たとえば彼らは「Hey Arab!」と言われたら侮辱されたは思わないのだろうか。ともあれ、こちらの言うことはまったく聞かない。勝手に値段交渉に入る。「あそこまで100、いや50でいい、50ならいいだろ」というふうに、ひとりで商談を進めていく。

ピラミッドは直に見てみると、なんとも不思議な印象を受ける。距離によって見え方がまるで違ってくる。角度を変えるだけで、向きを変えるだけで、まったくべつの表情を見せる。それはもしかすると、外見の石組が風化して、石のひとつひとつが別の個性を獲得しているために、全体のかもしだす効果が建築当初よりも複雑になっているせいかもしれない。カフラ王(真ん中のピラミッド)の上部だけは化粧石がまだ残っており、あれがピラミッドの本当の姿なのだろうけれど、装飾が取り払われて、いわば建物の梁が剥き出しになっている今の状態のほうが、歪さがあって逆に面白い。

ピラミッド周りに崩落した石が散乱しているものも面白い。これはやはり来て見てみなければわからないことだ。こうした「ノイズ」のようなものは絵葉書的写真からは排除されてしまう部分だけれど、まさにこうした余分でもあれば補遺的なものでもあるもの――かつてはピラミッドの一部をなす石材であったが、そこから落ちてしまったがゆえに、もはやピラミッドとは無関係の単なる余計な石に思えてしまうもの――を目の当たりをすることに、観光地を訪れる意義があるような気がする。

スフィンクスは間近に寄ってみて初めて見えてくるものがある。これは岩山を削り出したあとに表面を石材で覆ったのだろう。ところどころで、芯にある岩肌が剥き出しになっており、右半身のほうは補修工事のため(だと思う)の足場が築かれていた。顔はイスラムによって破壊され、あごひげ(ツタンカーメンのマスクにあるような縦に長いひげ)はイギリスに略奪されたという。たしかにピラミッドに比べると、スフィンクスのつくりはいろいろと甘い感じはするし、胴体が長いのか、若干間の抜けた雰囲気はあるが、やはり独特の威容がある。岩倉具視たちがスフィンクスのまえで撮った記念写真のことが頭に浮かぶ。

ピラミッドのまえにあることで有名なKFCに入ると、日本人観光客がたくさんいた。まあ、わたしたちもそのひとりではあったのだけれど。

 

 

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