うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

アメリカ観察記断章。酸味に関する意識。

アメリカ観察記断章。他国に住むことで味覚はどこまで変わるのか。日本国内でさえ、関東関西の違いがあるし、北と南ではかなり味付けが違う。しかし広い意味で日本的な味はあるのかもしれない、というのが気がつけば8年もアメリカに住んでいる身の実感だ。

外食はあまりしない。それでもこちらのスーパーで買い物をし、しかもその時々の特売品を中心に献立を組み立てていると、知らず知らずのうちに、日本とは違う感性を育ててきたような気もしている。ひとつ確実に言えることがある。酸味に関する意識の変化だ。

南カリフォルニアだとメキシコ料理に遭遇することが多いからというのもあるけれど、ここではライムの酸味が基調にあるし、なによりレモンやライムのような柑橘類が安い。ヴィネガーの種類も豊富だし、価格帯が広く、選択肢が多い。

つまるところ日本食(というか日本の家庭料理)は酸味に乏しいのではないか。酢の物はあるし、アクセントしての酸味はある。しかし酢の物はいわば副菜、付け合せだし、酢の味が主食/主調となることは稀ではないだろうか。醤油や味噌の角の取れた発酵系の味わいは、尖った酸味と別物だし、ファーストフードな日本食(牛丼でもカレーでも、寿司でも麺類でも)はそういう丸い味(旨味)を目指しているのではないか。

アメリカでなぜ柚子胡椒が流行るのがずっと不思議でしかたなかったけれど、酸味とパンチの強さという観点から考えていくと、かなり腑に落ちる。柚子という柑橘類=酸味と、胡椒というスパイス=刺激は、西洋的な味覚感性からすると、入りやすい部分なのかもしれない。こう考えていくと、納豆は受け入れられないだろうけれどキムチはありなのかな、という気もしてくる。