うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

20231021 Duolingo でのロシア語学習275日、または Duolingo で本当に外国語は身に付くのかについて

Duolingo でロシア語学習を始めて275日になったけれど、身についているような、身についていないような。

作業ゲー的な反復作業なのだ。脊髄反射的に4択のなかから正解を選ぶような設計になっている。いや、こう言ったほうが正確だろうか。意識的に記憶するかどうかは学習者の心構え次第であり、アプリそれ自体は、学習者の主体的な関わりを推奨するような設計にはなっていない、と。

単語の並び替え(翻訳)、リスニング、音読という3種のアクティヴィティをとおして、文例をひたすら繰り返すのが Duolingo の基本的な構造であり、文法知識のほとんどは、学習者が帰納法的に引き出していくしかない。

ということは、学習している言語と母語とのあいだの文法が異なっていればいるほど、帰納法では届かない部分が出てくる。というのも、母語には存在しない文法カテゴリーを「発見」するには、かなりの洞察力か、または、他言語ないしは言語一般にたいする知識を必要とするだろう。

英語からロシア語を学ぼうとする場合、ネックとなるのは格変化であるように感じる。英語も、代名詞だけは格変化する——たとえば、一人称なら、I、my、me のように、主格、所有格、目的格でかたちが変化する——ものの、一般名詞についてはそうではない(book は、主語で使うのであれ目的語で使うのであれ、かたちは変わらない)。しかし、ロシア語では、センテンスのなかでどの機能を果たすのかによって、かたちが変わる。だから、主語なら книга なのに、目的語になると книге や книгу となり、複数になるとまたかたちが変わる。複数形の主語は книги で、目的語だと книгам や книги。

(厄介なのは、それぞれの格に独自のかたちが割り振られていれば混乱しないのに、そうではないのだ。книга の場合、複数形の主格と対格と単数形の生格が同型。)

また、ロシア語の名詞には英語には存在しない「性」がある。男性名詞、女性名詞、中性名詞がある。たしかに英語にも、稀に、名詞の性が表面化することがある。たとえば、ship や moon を she で受けるというケース。ただし、英語話者がこれを単語それ自体の属性としてのジェンダーに帰しているのか、それとも単語の指示対象の属性(女性的なものとしての船や月)に帰しているのかは、よくわからないところでもある。

この点では、Duolingo のようなやり方でロシア語を学ぶなら、英語よりは、名詞を男性女性のジェンダーで分けるフランス語のほうがいいだろうし、さらに言えば、名詞をロシア語と同じく男性女性中性で分け、さらに格変化もするドイツ語のほうがさらに適しているのではないか。

Duolingo での学習時間が短いというわけでもないと思う。だいたい1日30分ぐらいはやっていて、それは Duolingo が毎週メールしてくれる学習レポートによれば、アプリ使用者の上位10%に入る学習時間だ。それに、自分の場合、フランス語はそこそこ、ドイツ語はそれなりには理解しているから、名詞の性、格変化、形容詞と名詞の呼応、動詞の活用については、文法概念としては頭に入っているつもりである。しかし、正直に言えば、ロシア語の文例だけからロシア語の文法概念を帰納するのは、かなり難しいと感じている。

Duolingo は学習者をランク分けし、毎週、獲得ポイントに従ってランクが上がったり下がったりする仕組みになっている。レッスンを完了するとポイントが入り、複数のレッスンからなるレッスンを終えるとポイント2倍のボーナスタイムが始まり、射幸心をあおる。Duolingo は語学学習をゲームのように遊ばせることを意図しているはずだが、その意味では、ひじょうによく出来ている。

デフォルメされたキャラ——人種的にも文化的にも多様——にしても、原色系の色使いにしても、ポップでクール。ステレオタイプ的なところはあるが、攻撃的なところや陰湿な感じはまったくない。ループするキャラの動きはなめらかだが、実写的な感じではなく、だからこその中毒性もある。

サウンドは最小限。正解したときの「ピコン」と、間違えたときの「タトン」、レッスンをコンプリートしたときのファンファーレだけ。ミニマリストだが、足りない感じはしない。

余計なファンクションがないせいか、アプリの起動は軽い。少しずつバージョンアップされており、改善が見られる(たとえば、以前はボーナスタイム15分がいつ終わるのかわかりづらかったのだけれど、最近のバージョンアップで、残り〇分という表示が出るようになった——それがいっそう射幸心をあおる)。

ともあれ、これだけ Duolingo をやってみて思うのは、これだけで言語を習得するのは難しいだろうということ。おそらく、文法的なことを別にやって、その補助とするか、または、会話のレッスンのようなものを受けて、その復習のための反復練習に使うか、というのが、上手い使い方ではないかと思う。あとは、すでにある程度は身についている言語を錆付かせないための訓練として使う。

しかし、最適な使い方は、新しい言語を学ぶ際の入り口として使うというやり方かもしれない。単純な反復練習は、単語暗記には最適であり、ベースとなるある程度の語彙を身につけるには手っ取り。とくに、文字が違う言語の場合(たとえばロシア語はキリル文字)、Duolingo の反復練習はひじょうに有益であり、自発的にやるにはモチベーションが上がらないところを、ゲーム的にブーストしてくれる。学習の習慣化にはもってこいだろう。

フリー版の Duolingo を使っていると、いろいろと広告が出る。ゲームの広告に混ざって、さまざまな語学アプリの広告も出るので、いろいろと試してみたけれど、シンプルでありながら(いや、シンプルであるからこそ)中毒性のある Duolingo のインターフェースは本当によく出来ていると思う。これに比べると、他の語学学習アプリは機能が多すぎたり、エフェクトが重すぎたりと、使用の際に微妙なストレスを覚える。

Duolingo を使えば、文字が違うからと敬遠していたギリシア語やアラビア語に手を伸ばすことも可能であるような気はする。とはいえ、まずは、ロシア語をもうすこし読めるようにしておきたいので、今年一杯はロシア語の勉強に集中するつもり。