翻訳語考。語順の問題は悩ましい。英語と日本語の文法構造が根本から違う以上——英語は主語-述語-目的語が、日本語は主語-目的語-述語が基本である——西欧語間の翻訳のような逐語訳はそもそも不可能だ。
そのような不可能性を踏まえたうえで、個人的には、できるだけ英語の語順をキープすることを目指している。だからたとえば、I study Russianを「わたしはロシア語を勉強している」とするよりも、「わたしが勉強しているのはロシア語です」のような流れに持ち込む。つまり、I study Russianを、What I study is Russianに書き換えて翻訳する。
しかし副詞句がいくつか重なってくると、それをどうさばくかは、究極的には、翻訳者の好みの問題であるような気もする。
Similar leagues were formed in Germany for the same purposeという文の場合、「似たような同盟が」、「ドイツで」、「同じ理由で」の3つのブロックは、6通りに並び替えられる。
1)似たような同盟がドイツで同じ理由で形成された。
2)似たような同盟が同じ理由でドイツで形成された。
3)ドイツで似たような同盟が同じ理由で形成された。
4)ドイツで同じ理由で似たような同盟が形成された。
5)同じ理由で似たような同盟がドイツで形成された。
6)同じ理由でドイツで似たような同盟が形成された。
原文の語順に忠実にやるなら1。しかし、本当に考えるべきは、前後の流れではある。この3要素のうち、前文と重複するのはどこで、新規情報は何なのかを見極めなければならない。当然ながら「同じ理由」がもっとも既出の情報で、その次が「似たような」、そして「ドイツ」は初出。
けれども、個人的にいまでも腑に落ちていないのは、日本語では初出情報をどこに置くのが座りがいいのか問題。冒頭だと唐突すぎる気もするけれど、後ろに置くと埋没してしまう恐れがある。
というわけで、結局、原理的なレベルでの模範的回答は存在しないのだろう。だから個人的なフィーリングという独断に陥らざるをえない。
1は「で」の反復が耳障り。ところが、4の「で」の反復は逆にリズムがあっていい。6になると、頭でっかちで引っかかる。日本語話者は無意識のうちに、57に近い流れを心地よく感じてしまうのかもしれない。「ドイツで(4)」「同じ理由で(7)」。
そして個人的独断によって5を選ぶ。「同じ理由で似たような同盟がドイツで」は、音数で言えば「同じ理由で(7)」
「似たような同盟が(9)」「ドイツで(4)」となり、最初の2つが57の比率に近くなるし、文字数で言えば、「同じ理由で(5)」「似たような同盟(7)」「がドイツで(5)」となるので、視覚情報的には日本語の生理にフィットするのではないかと思われるから。
でもこれは、朝起きたら気分が変わっていそうなところでもある。