うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

翻訳語考。人名表記。Romanes をどう転記するか。

人名は本当に困る。George Romanes(1848‐94)という進化生物学者がいる。ダーウィン(1809‐82)より40歳近く若い Romanes は、晩年期のダーウィンのリサーチ・アシスタントを務めたばかりか、未出版の原稿を託されるほど、ダーウィンから信頼されていた。ハクスリーなどとも親しかった。

議論としては、『人間の由来』のダーウィンを継承し、それを心理学的な方向に押し進めたようであり、動物の意識と人間の意識の関係についての比較研究に取り組んだという。

惜しくも早世したが、彼の名前を冠したオックスフォード大学の公開講座 Romanes Lecture は現在も続いており、その登壇者に名を連ねるのは、グラッドストーンチャーチルやブレア、ポパーバーリンゴンブリッチなどなど、華々しい面々である。

 

問題は彼の名字をどうカタカナ表記するか。

リーダーズプラスは「ローマーネズ」としており、ウィキペディアは「ロマネス」、ブリタニカは「ロマーニズ」。リーダーズプラスの発音記号を忠実に転写すれば、「ロゥマーニズ」が一番近いだろう(アクセントは「マ」)。

しかし、YouTubeに上がっているここ数年のレクチャーの動画の冒頭を聞いてみたところ、かならずしも発音は一定していない。最初の「Ro」はおおむね「ロゥ」(軽い二重母音)、「ma」は「マー」と伸ばすのは共通しているが、最後の「nes」はわりとバラバラ。「ネス」も「ネズ」も「ニズ」も、表記としてはありといえばありという気がする。 アメリカ的な発音を学んだ身としては、nes を濁音で終わらせるにはその前を「ニ」と発音したい気がするが、YouTubeの動画から聞き取れるかぎりでは、はっきりと「i」とは発音しておらず、むしろ「e」の音に近い気がするところ。そして、「e」の音に近づけるなら、やはり最後は「s」と濁らないほうが言いやすい気はする。

この動画で講演者を紹介する人の発音はすごくクリアで、「ロマーネス」と言っている(しかし、20秒ぐらいのところは「ロマーネズ」と聞こえるような…)。講演者も「ロマ‐ネス」という発音。

 

「ロマーネス」を個人的には推す。しかし、「ロマーネス」では、日本語のウィキペディアの「ロマネス」がググったときにトップに出ないのが悩ましいところ。

とはいえ、カタカナで「ロマネス」と書くと、日本語話者はおおむね、「ロ」にアクセントをつけて読むのではないか(ちなみに、リーダーズプラスの表記「ローマーネズ」も同じ問題が起こる気がする)。それはやはり問題だと思う。