うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析6(試訳、私訳)

Mild und leise        なんと穏やかに、静かに、
wie er lächelt,         彼は笑っていることか。
wie das Auge         なんと優し気にあの人は
hold er öffnet ---         目を開いていることか——
seht ihr's Freunde?         見えるでしょう、あなたたちにも? 
Seht ihr's nicht?        見えないのですか?
Immer lichter          ますます明るく
wie er leuchtet,                            なんと光り輝いて、
stern-umstrahlet                          星の光に包まれて
hoch sich hebt?                            高く昇っていくのでしょう?
Seht ihr's nicht?                            あなたたちには見えないのですか?
Wie das Herz ihm        あの人の心は
mutig schwillt,           なんと勇ましくふくらみ、
voll und hehr                               充ち満ちて気高く
im Busen ihm quillt?       胸からあふれだしているでしょう?       
Wie den Lippen,                           その唇からは
wonnig mild,                                愛らしく穏やかに、
süsser Atem            甘やかな息がなんと
sanft entweht ---          柔らかくもれていることか——
Freunde! Seht!                             そうでしょう、ほら! 見てごらんなさい!
Fühlt und seht ihr's nicht?           感じられないのですか、見えないのですか?
Hör ich nur                                   わたしだけが聞いているの
diese Weise,                                 この旋律を
die so wunder-                             とても素晴ら
voll und leise,          しく静かな旋律を
Wonne klagend,                           至上の喜びを嘆く
alles sagend,                                 すべてを言って
mild versöhnend        穏やかに調和させる
aus ihm tönend,         あの人から響いてくる旋律
in mich dringet,                          わたしのなかに入り込み
auf sich schwinget,        あの人のうえで揺れ動き
hold erhallend          穏やかに鳴り響いて
um mich klinget?        わたしの周りで響いているこの旋律を?
Heller schallend,         ずっと明るく響いて、
mich umwallend,         わたしを包むように沸き立っている、
sind es Wellen                                それは波のように寄せては返す
sanfter Lüfte?         柔らかな吐息だろうか?
Sind es Wogen         波/雲のような
wonniger Düfte?         至福の芳香だろうか?
Wie sie schwellen,         それがなんとふくれあがり、
mich umrauschen,         わたしを包んでざわめいていることか、
soll ich atmen,          わたしは息をしているのか、
soll ich lauschen?           わたしは聞いているのか?
Soll ich schlürfen,                   滴りを飲み込んでいるのだろうか、
untertauchen?           わたしが沈んでいるのだろうか?
Süss in Düften           甘く香りに包まれて
mich verhauchen?        自分が消えてしまえばいいのか?
In dem wogenden Schwall,    波打つ大波のなかで、
in dem tönenden Schall,      響き渡る響きのこだまのなかで、
in des Welt-Atems       放たれる息吹で
wehendem All ---        充たされる宇宙のなかで——
ertrinken,             溺れて、
versinken ---          沈んで——
unbewusst ---           意識の彼方で——
höchste Lust!                  このうえないよろこび!

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析5(日本語にすると、多少の文法解説を添えて)

日本語にすると

多少の文法解説を添えながら日本語にしてみる。ただ、わたしのドイツ語力はかなり適当なので、以下の説明にはさまざまな誤りがあるかもしれないことをあらかじめお断りしておく。

 

Mild und leise
wie er lächelt,
wie das Auge
hold er öffnet ---

最初の mild と leise は wie とコンビネーションになって、lächelt(動詞原形は lächelen、笑う)を修飾している。普通の語順なら、Wie mild and leise er lächelt の感嘆文というところだろうか。mild は 英語なら mild、 leise は 「わずかに」で、どちらも loud ではないという含みがあるようだ。「なんと穏やかに、静かに、彼は笑っていることか。」

次の2行もセンテンス構造は似ている。Wie hold er öffnet das Auge が普通の語順。hold は英語なら lovely や sweetly だろうか。öffnet の動詞原形は öffnen で「開く」。Auge は「目」。「なんと優し気に彼は目を開いていることか。」

 

seht ihr's Freunde?
Seht ihr's nicht?

Seht の動詞原形は sehen で「見る」。ihr は二人称複数。's は目的語の es(英語の it )の省略形で、これまでのところ(彼が穏やかに笑い、優しい視線でこちらを見ていること)を受けている。「それが見えるでしょう、友たちよ? それが見えないのですか?」

 

Immer lichter
wie er leuchtet,
stern-umstrahlet
hoch sich hebt?

最初の行は冒頭と同じセンテンス構造。leuchtet(leuchten)は「光り輝く」、lichter は 形容詞 licht (明るく)の比較級で、そこに、比較級を強調する immer(ますます)がついている。「なんとますます明るく彼は光り輝いていることか。」

umstrahlet の原形は umstrahlen で、独独辞書によれば、erleuchten(明かりで照らす)の意味。Stern は「星」。umstrahlet と過去分詞になっており、副詞的に使われている。「星に照らされて」。um- という接頭辞は「まわりに」というニュアンスがあるので、「星の光に包まれて」という感じだろうか。

sich heben という再帰動詞は、字義どおりには、「自分自身を持ち上げる」で、「体を起こす」という意味かとも思うが、hoch という副詞「高く」がついているし、「星」ということを考えると、「天に昇っていく」という意味のほうがイメージに近いだろうか。意味上の主語は当然 er であり、トリスタンを指す。「星の光に包まれて(彼は)高く昇っていっているでしょう?」

しかし、ここは、出だしと矛盾しているとも言える。最初の4行は、イゾルデの目にはトリスタンがまだ生きているように見えていることをわたしたちに告げているが、この2行は、トリスタンが昇天していくところをイゾルデが見ていることをほのめかす。つまり、この時点でイゾルデはすでに、トリスタンが死んでいることを無意識的には理解しており、それが意図せずして言葉に出てしまっているのではないか。

 

Seht ihr's nicht?

「あなたたちにはそれが見えないのですか?」

すぐ上で書いたとおり、イゾルデはトリスタンが生きていることを認めて欲しいのか、それとも、死んでいることを認めて欲しいのか。次の行からは、トリスタンの肉体がまだ息づいているようにイゾルデには見えているのではないかという気がする。

 

Wie das Herz ihm
mutig schwillt,
voll und hehr
im Busen ihm quillt?

Mut は「勇気」だから、その形容詞系の mutig は「勇気のある」「勇敢に」という意味。schwillt の動詞原形は schwellen で「ふくれる」。Herz は英語の heart と同じく、「心臓」でもあれば「心」でもある。ここは「なんと勇敢に彼の胸はふくらんでいることか」という感じだろうか。

voll は full、hehr は noble。形容詞を2つ並べるやり方が繰り返される。Busen は「胸」で、quillt の動詞原形は quellen、「わき出る」、「ふくれあがって飛び出る」の意味。動詞に呼応する主語は das Herz。schwellen と quellen はどちらも、容積的な増大のイメージで共通している。「一杯に気高く(心が)胸のなかであふれだしていないだろうか?」

 

Wie den Lippen,
wonnig mild,
süsser Atem
sanft entweht ---

Lippen は「唇 Lippe」の複数形で、den がついているので3格になる。つまり主語はこれではなく、süsser Atem のほうだ。Atem は「息」、süss は「甘い」。sanft は mild と似た意味で、英語なら soft。weht の動詞原形は wehen で blow。接頭辞 ent- は「から離れて」の意味がある。wonnig mild――wonnig は「愛らしい」、mild は「穏やかに」―― がどこにかかるのか、いまひとつ釈然としないが、Wie につながると考えていいのだろうか。「なんと愛らしく穏やかに、唇から、甘やかな息が柔らかくもれていることか。」 

 

Freunde! Seht!
Fühlt und seht ihr's nicht?

「友たちよ! 見てください! それが感じられないのですか、見えないのですか?」

まずは命令形で、次には疑問文で。そしてここまでは、「見る sehen」が中心だったのに、ここで「感じる fühlen」が入ってくる。次の行では「聞く hören」が加わる。最終的には、トリスタンの吐息を吸い込むというようなイメージが提示される。

その意味では、「愛の死」を、視覚的なものに始まり、聴覚的なものに焦点が移り、それらよりもずっと肉感的であるがゆえに官能的でもある触覚や口腔がクローズアップされていくとまとめることもできるだろう。

 

Höre ich nur
diese Weise,
die so wunder-
voll und leise,
Wonne klagend,
alles sagend,
mild versöhnend
aus ihm tönend,
in mich dringet,
auf sich schwinget,
hold erhallend
um mich klinget?

ここから12行にわたる1文となる。骨格になるのは、Höre ich nur diese Weise。「わたしだけがこの旋律を聞いているのだろうか」(hören は「聞く」、nur は英語なら only、Weise は「旋律」)。

そして、Weise に関係代名詞 の die がつき、「どのような」旋律なのかを説明していく。動詞 + endの現在分詞が4つ(Wonne klagend;alles sagend;mild versöhnend;aus ihm tönend)ぶら下がるので、込み入っているように見えるけれど、骨格になるのは in mich dringet と auf sich schwinget と um mich klinget の3つになる。

骨格になる部分を赤にしてみよう。

die so wunder-
voll und leise,
Wonne klagend,
alles sagend,
mild versöhnend
aus ihm tönend,
in mich dringet,
auf sich schwinget,
hold erhallend
um mich klinget?

旋律が、「わたしのなかに入り込み」(dringen は英語なら penetrate;mich は me;in は英語同様)、「彼のうえで揺れ動き」(schwinget の原形は schwingen で swing、「響く」という意味もあるようだ;auf は on)、「わたしのまわりで響いている」(klinget の原形は klingen で「響く」の意味だが、グラスや鐘のような硬質な響きを表すようであり、schwingen のほうは「バイブレーション」という感じでの「響く」だろう;um は around)。

つまり、ここでは、(ひとつうえのaus ihmと含めると、彼から)わたしから彼からわたしという往還がある。わたしのなかに入り込んでくる旋律は彼のなかでも揺れ動いており——わたしと彼は音の振動によって結ばれている——そのような音がわたしの周りをも充たしている。だから、もしかすると、往還というよりも、彼を中心とする音の波動がわたしにとどき、それが波紋のようにわたしの周りに広がっていく、というイメージでとらえたほうがいいかもしれない。

さて、では、ぶらさがっている4つの現在分詞を見てみよう。

die so wunder-
voll und leise,
Wonne klagend,
alles sagend,
mild versöhnend
aus ihm tönend,
in mich dringet,
auf sich schwinget,
hold erhallend
um mich klinget?

「わたしのなかに入り込む」旋律はどのようなものなのか。それはまず、so wundervoll und leise なものである。Wunder は英語なら wonder、つまり、「驚き」。「驚きに充ちた」「ワンダフルな」。leise は冒頭でも出てきたとおり、「静かに」(騒がしくなく)。「とても素晴らしい、静かな(旋律)」。

Wonne klagend。Wonne は「至上の喜び」。klagen は、「悲嘆の声を発する」「嘆く」ということなので、「至上の喜びを悲し気に訴えかける」というのは撞着的ではあるけれど、すでに述べたように、「愛の死」は理性的な一貫性とは別の論理にもとづく流れであり、そのなかでは、このような相反するものが一続きのものとして出現しうる。「至上の喜びを悲し気に訴えかける(旋律)」。

alles sagend。saying everything。「すべてを言う(旋律)」。

mild versöhnend。versöhnend は「調和させる」とか「和解させる」ということで、英語なら reconcile になるが、再帰動詞または他動詞として使うものであり、自動詞ではないようだ。だとすると、「何を」調和させるのかということになる。これはネットにある日本語訳(これこれ)を見ても判然としないし、手持ちの英訳仏訳を見てもよくわからないが、流れからすると、前の行の alles を目的語とするとしっくりくる気がする。mild は「愛の死」の出だしの言葉だ。「穏やかに(すべてを)調和させる(旋律)」

aus ihm tönend。Ton で「音」、その複数形が Töne。その動詞形が tönenというわけで、aus は from なので、「彼から響いてくる(旋律)」。

hold erhallend。erhallend は「朗々と響かせる」のような意味らしい。「穏やかに鳴り響く(旋律)」。

というわけで、すべてをまとめると

Höre ich nur わたしだけ聞いているのだろうか
diese Weise, この旋律を
die so wunder- とても素晴ら
voll und leise,  しく静かな(旋律を)
Wonne klagend, 至上の喜びを悲し気に訴えかける(旋律を)
alles sagend,   すべてを言う(旋律を)
mild versöhnend  穏やかに(すべてを)調和させる(旋律を)
aus ihm tönend,  彼から響いてくる(旋律を)
in mich dringet,  (旋律は)わたしのなかに入り込み
auf sich schwinget, 彼のうえで揺れ動き
hold erhallend   穏やかに鳴り響き
um mich klinget?  わたしの周りで響いている(それが聞こえるのはわたしだけ?)

 

 

Heller schallend,
mich umwallend,
sind es Wellen
sanfter Lüfte?

Hell は「明るく」。ここでは比較級か。schallen は「響く」。反響する、というニュアンスだろうか。明るさは視覚的なもの、響きは聴覚的(または触覚的)なものであり、その意味では、ここは共感覚的な一節であるとも言える。というよりも、「愛の死」自体が共感覚的な認識を描き出しているというべきだろうか。

現在分詞だが、schallen の意味上の主語は何か。文法的には主文の主語であり、es ということだが、流れ的には、前文の「旋律」になるように思うが、いまひとつよくわからない。「ずっと明るく響いて」。

wallen は「沸き立つ」「沸騰する」、または「(雲や霧が)湧く」。「わたしを包むように沸き/湧き立っている」。

Wellen は「波」の複数形。だから、前行の wallen は「湧く」のほうだろう。

sanft は soft、Luft は breath、つまり「吐息」。「柔らかな吐息の波」、というか、「波のように寄せては返す柔らかな吐息」というところだろうか。

「ずっと明るく響いて/わたしを包むように沸き立っている/これは波のように寄せては返す/柔らかな吐息だろうか?」

 

Sind es Wogen
wonniger Düfte?

Woge も「波」の意味で、Wogen だと複数形。ただ、楽譜だと Wolken (「雲」の複数形)になっている。もしかすると、ワーグナーの出版テクストと、出版楽譜で、ここの箇所が違うのかもしれない。ともあれ、波でも雲でも、前から続いている容積の増大というイメージには合致する。Welle に引きつければ「波 Woge」のほうが妥当だろうし、「吐息 Luft」に引きつければ「雲 Wolke」のほうが妥当ではある。

wonnig は 「至福の」で、Duft は「芳香」。

ここも共感覚的だ。波であれ雲であれ、視覚的なものだが、それが嗅覚的なものに横滑りしていく。ボードレールの「万物照応 correspondances」が想起される。

「これは波/雲のような至福の芳香だろうか?」

 


Wie sie schwellen,
mich umrauschen,
soll ich atmen,
soll ich lauschen?

schwellen は「膨れる」で、体積が膨張するというニュアンスか。とすると、sie の指示対象としては、「波 Woge」よりも「雲 Wolke」のほうが妥当な気はする。「雲(のような彼の吐息)が何と膨れ上がり」。

rauschen は「ざわめく」。「わたしを包んでざわめいていることだろう」。

atmen は「呼吸をする」、lauchen は「聞いている」。イゾルデはもはや自分の5感すら信頼できなくなってている。

「わたしは息をしているのだろうか/わたしは聞いているのだろうか」

 

 

Soll ich schlürfen,
untertauchen?

schlürfen は英語なら sip で「ちびちび飲む」。untertauchen は「沈む」。どちらも水のイメージだが、方向性が違う。schlürfen は水を体内に取り入れる感じで、水が体のなかに沈んでいくが(それは atmen と同じく、口を経由するものでもある)、untertauchen は体が水に沈んでいく。

「滴りを飲み込んでいるのだろうか、わたしが沈んでいるのだろうか」

 

 

Süss in Düften
mich verhauchen?

verhauchen は「(光などが)消える」という意味。untertauchen に引き続いて、五感ではなく、体全体がクローズアップされている。

「甘く香りに包まれて、自分が消えてしまえばいいのか?」

 

 

In dem wogenden Schwall,
in dem tönenden Schall,
in des Welt-Atems
wehendem All ---

この前のところから、イゾルデはもはや、外からの入ってくるものを五感のどれかで(または五感のいくつかで)受け入れるというよりも、体全体が世界と触れあい、体の輪郭は溶けだしていくかのようだ。

wogen は「波打つ」、Schwall は「大波」。tonen は「響く」、Schall は「反響や残響のある響き」。「波打つ大波のなかで/響き渡る響きのこだまのなかで」

Welt-Atem。これは何ともすごい造語だ。Welt は「世界」、Atem は「息吹」。とうとうイゾルデには世界が呼吸しているのが感じられるのだ。wehen は「吹く」、All は「宇宙」。しかしこれはどう訳したらいいのか、と考え出すと、ここの Welt は「世界」でいいのかという気もしてくる。All と組み合わせて Weltall とすると「宇宙」のニュアンスになる。「放たれる息吹で充たされる宇宙のなかで」

ここは、in が3つ続き、ここでクライマックスになる。最初は「波」で、次が「響き」で、最後が「息吹」であり「宇宙」。

 

 

ertrinken,
versinken ---
unbewusst ---
höchste Lust!

ertrinken は「溺れる」。 「沈む untertauchen」 や「自分が消える mich verhauchen」というイメージがいまいちど繰り返される。versinken は untetauchen と verhauchen の複合のような感じと言っていいだろうか。「沈んで消える」。ところで、ここは動詞原形が投げ出されているように見えるけれど、文法的には、Soll ich ertrinken,/ Soll ich versinken ――「(わたしは)溺れる(のだろうか)、/(わたしは)沈んで消える(のだろうか)」と読むべきところなのだろうか。「溺れて/沈んで」

しかし、この2つの動詞がまだそれまでの流れと構文的にはぎりぎり接合するとしても、最後の2行はまさに断片的だ。

unbewusst。bewusst で「意識がある」、英語なら conscious。ということは、unbewusst という否定形は、「意識がない」ということになる。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』(1859)から50年近く後の19世紀末、ジークムント・フロイトは「無意識 das Unbewusste」を問題として議論の俎上に載せていく。ところで、「意識 Bewusstsein」 はヘーゲルにとって決定的な重要性をもつ問題であったし、ヘーゲル批判(またはそのラディカル化)の急先鋒であった哲学者フォイエルバッハワーグナーに大きな影響を与えている。

とはいうものの、ここの unbewusst にどこまで思想的なものを読み込んでいいのかは解釈が分かれるところだろう。もっとも平たく読むなら、「意識がない」ということで、「我を忘れて」「呆然自失で」という感じになるだろうし、フロイトを先取りするように読むなら、「(意識にまでは浮上してこない領域にある)無意識的な状態のなかで」という感じだろう。どちらにせよ、ここでイゾルデが bewusst とは別の水準、別の領域、別の世界に入っていることはまちがいない。

höchst は hoch の最上級で、「もっとも高い」「至高の」。「愛の死」の最後の言葉は Lust。「(内面的な)欲求」という意味でもあれば、「(官能的な、肉体的な)よろこび」という意味もある。どちらにせよ、快いものであるとは言えるようだ。

ここですでにイゾルデは肉体的な身体をほとんど解脱しているとも言えるし、自己の身体と世界=宇宙が息吹として溶け合っているとも言える。硬い肉ではなく、流動する気体になっている。そのような気体的身体の官能性は、肉体的であることがただちに精神的なものになると言えるのではないか。つまり、ここでは、心と体、形なきものと形あるもの、非物質と物質とが、共立するような状態が出現しているのである。「このうえないよろこび」

 

だとすれば、「愛の死」のあとイゾルデがもはや身体という牢獄に囚われた精神の世界であるこの世に戻ってくることができないのは当然かもしれない。彼女は死ぬのではなく、エーテル的な存在に昇華されるのだから。

複数的な演出原理の説明なき同居:石神夏希演出、三島由紀夫「弱法師」

20220917@舞台芸術公園稽古場棟「BOXシアター」

「扇風機もございませんし」とは言うが、扇風機はある。「喧嘩の場所じゃございませんのですから、ここは」とは言うが、段々になった観客席に四方から取り囲まれた正方形の白い床の舞台はまるでリングのようではないか。石神夏希の演出による三島由紀夫の「弱法師」は、言葉のうえでは三島に忠実でありながら、演劇としては三島を裏切るかのように、語られる言葉と舞台の出来事のズレを際立たせるような空間のなかで始まったのだった。

腰ほどの高さに持ち上げられた舞台の床の中央にそびえる白い脚立。対角線になるコーナーふたつに横並びに置かれた、背もたれのある簡素な二脚ずつの木の椅子。また別のコーナーに置かれたマイクスタンドは観客席のほうを向いている。舞台の頭上に浮かぶ白い環には、四角に切り取られた開口部が一か所だけある。幾何学的なところと無機的なところが混在する舞台は、能舞台のような様式的に切り詰められた空白の豊饒さでも、表面的にはリアリズムを踏まえている三島のト書きがほのめかすような戦後社会の混沌たる豊饒さでもなく、SF的な仮想世界の欠乏を想起させる。時代や場所を特定できるような細部は注意深く取り除かれている。過去のようで未来でもあり、近いようで遠くもある。現実のようで、現実感がない。

「弱法師」の前半は、盲目の戦災孤児である高貴なる美青年の俊徳をめぐって、養父母の川島夫妻と実父母の高安夫妻が、家庭裁判所の調停委員である桜間級子を仲裁人として互いの言い分をぶつけ合う二対二の舌戦だが、そこからせりあがってくるのは、両夫妻の真摯な親心をも上回る俊徳の傍若無人なわがままぶりであり、その強烈な毒気に翻弄される両夫妻の悲喜劇的な姿である。当然ながら調停は不調に終わる。夕日の差しこむ部屋に残った俊徳と級子の噛み合わない一対一の対決が「弱法師」の後半をかたちづくる。そこで明かされるのは、俊徳の身勝手と思われたものが、じつは戦争のトラウマの顕れであり、彼は空襲に焼かれる世界を、終わった世界を見えない目でいつもずっと見ているのだという怖ろしい真実である。しかし俊徳の魂の叫びが級子に届くことはない。ふたりの精神的な距離は近づくが、それは共感的な理解が深まるからではなく、一方通行な思いが貫かれるからであり、ふたりとも互いに譲歩することはないだろう。三島はほとんど何の救いも与えることなく、劇を閉じる。「どうしてだか、誰からも愛されるんだよ」という退行的に無邪気に幼い俊徳のつぶやきは、甘やかな退廃と陶酔だけを後に残す。いかにも三島由紀夫にふさわしいかたちで。

石神の演出は、そのような三島特有のデカダンス脱構築をねらっていたのだろうか。養父母の川島夫妻(中西星羅、大道無門優也)は赤のドレスに青のスーツ、実父母の高安夫妻(布施安寿香、大内米治)は黄のワンピースとニットカーディガンに緑の半袖開襟シャツにチノパン。両夫妻の経済階級的な格差は一目瞭然だが、下から上まで一色のグラデーションに包まれた姿は、ひとりひとり眺めれば、リアリズム的にありえそうな感じもするが、4人揃うと、モダニズム的に意図された不自然さを強く感じる。両夫妻の演技もまた、自然主義的な感情の表出であるように見えながら、同時に、きわめて様式化された演技であり、それはもしかすると、プロレス的な(筋書のある)即興のマイクパフォーマンスであり、(八百長的な)迫真の肉弾戦であったと言ってよいかもしれない。「僕はひょっとすると、もう星になっているのかもしれないんです」と嘯く俊徳に合いの手を入れるように「星ですとも、お前は」と声を合わせて叫び、親を虫けら扱いする俊徳の言うがままにて床に這いつくばる4人の姿は、あまりにも見事に振りつけられているので、笑うべきなのか涙すべきなのか、戸惑わされるところである。

その一方で、俊徳と級子は、川島夫妻や高安夫妻とはまったく別の原理にもとづいて造形されていた。石神による演出の核心にあるのは、俊徳と級子をジェンダー的にスイッチした後で、元に戻すという手法である。それはつまり、同じ戯曲を、主役ふたりを入れ替えて、2回連続で上演することである。こうして、前半では、級子を男優(八木光太郎)が、俊徳を女優(山本実幸)が演じることになるのだが、三島のト書きでは和服のはずの級子は、赤いハイビスカス柄の黒いアロハシャツにショーツ、クマの着ぐるみのような灰色の帽子とレッグウォーマーをまとい、コミカルともシリアスともいえない撹乱的なトリックスターとして、四角いリングのような舞台の下をキャスター付きの肘掛け椅子で滑るように移動しながら、夫妻たちを宥めるというよりも、観客を含めて煽っていく。「仕立てのよい背広に黒メガネ、ステッキ」となっている俊徳のほうは、ダブルスーツにサングラスの出で立ちで、一見すると忠実なようだが、彼女は級子の分身であるかのような灰色のクマのぬいぐるみをずっと抱えている。脚立の上から5人を見下ろす前半の俊徳は、いわば古典的な静の演技であり、三島が意図したであろう自律的な記述言語——俊徳が視界を失った焼け野原で最後に見た世界の終りの風景描写——を、最低限の身体的所作をまとわせた増幅的朗誦として現前させていたと言えるだろう。

脚立から下りて自暴自棄にあばれる俊徳が級子に無理やり肉体的に組み伏せられた後、あたかもそう戯曲に書かれているかのように自然にダカーポした2回戦の俊徳(八木光太郎)は、かなりテイストが異なる。脚立の上から裁き手よろしく見下ろす級子(山本実幸)——1回戦で来ていた上着を脱いでノースリーブのカットソー姿で、前半の級子にあったそこはかとないお笑いテイストは皆無であり、法の番人よろしく過度の厳めしさがある——の下で、ツイード上着ショーツ、ハイソックスにサングラスという、クラシカルではありながらどこかコスプレ的な、本物でありながらどうしようもなく偽物めいた俊徳は、言葉の意味を朗々と響かせるというよりも、烈しい肉体的な運動性の随伴物として言葉の音を反響させる。俊徳が最後に目にした世界の終わりを描写する「阿鼻叫喚」という単語は、意味から解放され、強迫観念に取り憑かれたかのように舞台を周回する肉体がほとばしらせる体液であるかのように、オノマトペになるまで執拗に反復される。夕日は舞台をいまいちどほのかにノスタルジックに赤く染め上げるが、最後はふたたび人工的な白い光に照らし出されて、暗転する。

石神は三島の謎めいた幕切れにわかりやすい解釈を与えることを拒むために、いかにも三島らしいデカダンスな読解——凡人を無慈悲に翻弄する天才の男と、従順なようでいて彼を包み込んでしまうファム・ファタル——を退けるために、ふたつのバージョンを「ただ」並列させてみたのかもしれない。石神の演出には、戯曲を反復する理由をあえて正当化しないという無防備な勇敢さがあった。2回戦ではテクストが多少削られていたし、言葉の意味を解体してその音を受肉化するためにテクストにない反復を断行していた部分はあったとはいえ、話されるセリフの扱いは禁欲的であった。その一方で、視覚化のためのト書きは大胆に読み替えられていた。

複数的な演出原理を説明なしに同居させながら、ひとつの上演として破綻なくまとめあげていたところ、三島の美意識に寄り添いつつもそこから距離をとり、かといって、完全に相対化するのでもなければ完全に我有化するのでもなく、いわば自由間接話法的に、三島の声を模しながら同じ話を別の形で具現化してみせたところに、石神の独創的な手腕があったと言っていいのだとは思う。きわめて挑発的で、省察や反芻を誘う舞台ではあったとは思う。しかしながら、わたしとしては、この統合されざる単なる複数性に、いまひとつ納得できない思いを抱いてもいる。

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析4(歌うとなると、音節は)

歌うとなると、音節は

イタリア語が歌いやすいのは、音節が母音で終わる場合がほとんどだからだろう。それとは逆に、ドイツ語は、子音で終わる音節が多い。ということは、1音のなかで、母音部分と子音部分をわけて発音しなければいけなくなるということだ。

たとえば、Mild und leiseを考えてみよう。

 (1) Mild/ und/ (3) lei・se          wie/ er/  (3) ・chelt,

楽譜上、Mild/und/lei/seにそれぞれ四分音符が割り振られている。

だが、Mildとundは、どちらも、Miとunという母音を延ばし、残りの子音のldとdについては、次の音符にアウフタクトのようにひっかける感じになる。だから、流れとしては、Mi/ ld'un/ d'lei/ seのような流れに近いだろう。

また、最後の子音をどの程度強く発音するのか、どの程度強く「はじく」のかという問題もある。ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ以降、語末の子音をかなりはっきりとはじくのが主流となったが、90年代ぐらいからだろうか、古楽的なのびやかな歌い方があたりまえのように一般に受け入れられるようになってくると、ディースカウ流の強いディクションの流行は退き、流麗なカンタービレが主流になってきたような印象もある。ただ、ドイツ語という言語の性質上、語末の子音をどうはめるのかという問題は、依然として残っているし、そこにこそ、歌手の言語感覚が現れるとも言える。

 

歌いやすい音、歌いにくい音

さて、「愛の死」は音として歌いやすいのか、歌いにくいのか。言語的なところをメインにして考えてみよう。発声法についてはよくわからないので、かなり推測も交えてのことになるけれど。

 

 (1) Mild/ und/ (3) lei・se          wie/ er/  (3) ・chelt,

ここでは最高音がläになるが、口を大きく開けられる箇所ではある。

 

          wie/     das/(3) Au・ge    (1) hold/     er/ (3) öff・net ---

das/Auのところで、Auをジャストで入ってくるのはなかなか難しいのかもしれない。というのも、sで口が閉じて、Auで口を広げることになるわけだけれど、音程は変わらないし、言葉の流れ上、das と Auge(定冠詞と名詞)を区切るわけにはいかない。そして、そのような文法的構造を踏まえると、音量バランスは Au > das となるところだが、そうなってくると、wie の入りから Au までを念頭に置いてフレーズを作っていかなければならないところだ。3拍目にフレーズの山が来るという点では、次の小節も同じである。

いろいろと音源を聞いても、Auが一瞬遅れがちになる。最高音となるöffは、ドイツ語特有の音であり、ノンネイティヴには難しい箇所だろう。だが、それなりに口が開く音ではあるので、そこまで歌いにくいわけでもないと思う。

 

                     seht/      ihr's/   (3) Freun・de? 

                    Seht/ ihr's/  (3)nicht?

ここはほぼ同じリズム。1拍目が休みで。ただ2拍目の入りははっきりとアクセントのある言葉であり、流れが意図的にズラされてもいる。「愛の死」は基本的に横に流れていく音楽だが、拍の使い方となると、裏拍で入ってくる箇所が随所にある。つまり、縦の強い刻みでリズムを断ち切るのではなく(たとえばストラヴィンスキーの『春の祭典』のように)、強拍での休符から弱拍での入り(そして、ときおり弱拍の箇所に、言葉上はアクセントをつけるべき語を割り振る)でリズム感が平坦な繰り返しにならないように工夫がほどこされている。

 

                       Im・mer/            (3) lich・ter  

ここもシンコペーション的に強勢のある音節が入ってくる。lich のところは強拍とアクセントが一致するが、ter というノンアクセントの音節で弱拍のところでさらに音が上がるため、音楽的(音高的)には盛り上がるのに、言葉的には抜かなければいけない(lich > ter)。このように、音楽的な高揚と、言語的な高揚は、かならずしもシンクロしない。

              wie/ er/            (3) leuch・tet,

その意味では、この箇所は leuch で最高音が来て、ノンアクセントの tet で音が下がるため、音楽の旋律と、言葉の抑揚が一致する箇所になる。

 

                             (3)stern/                           -um・(3)strah・let(1)hoch/ sich/ (3) hebt?

 

ここも、言葉の抑揚と旋律のアップダウンが呼応している。また、stern はここまでで最も長い音になる。Stern は「星」の意味。strahlen は「光り輝く」の意味。光のイマージュで音楽がのびやかになり、輝かしくなる。言葉の意味と音楽の雰囲気が重なり合う。その意味では、hoch という、英語で言えば high の意味を持つ副詞にフレーズの最高音が割り振られているのは面白いし、その後の hebt (heben) という動詞「持ち上げる」が、sich という目的語より高い音になっている(まさに、音程的に「持ち上げる」関係になっている)のも面白い。

 

        Seht/ ihr's/    (3) nicht?

前々回で書いたように、「愛の死」 で繰り返されるのはこの「あなたたちには見えないの?」というフレーズだが、メロディは同じではない。ここまでは、高・低・高の関係で来ていたけれど、ここでは2音目と3音目で音程が変わらない。

      

            Wie/ das/      (3) Herz/ ihm           (1) mu・tig/            (3) schwillt,  

「のように」という意味の Wie はこれまでもシンコペーション的に入って来ていたが、ここでもそうなる。ここは言葉のアクセントと音楽の強拍がぴったりとはまり(mu・tig で tig のほうが音程が上がるのを除けば)、自然に流れていく。

 

               voll/               und/        (1) hehr                im/      (1)Bu・sen/ihm/(3)quillt?

アクセントのある音節が、弱拍で入ってきて、二分音符。hehr は強拍で入り3拍伸ばす。ここで音楽はかなり伸びやかに広がるのに、4拍目がアウフタクト的に次の詩行がかぶさり、また、8分音符を基本リズムとして細かく音が動く。しかし、静から動になるというよりも、リタルダンド的な感じもある。長い音から短い音に急に移ったせいで、錯覚するのかもしれない。

Bu も qui も、音楽の強拍と言葉の強勢がピッタリはまっており、音楽の急展開(長音から敏捷な8分音符への移行)が言葉を追い越さない作りになっている。

 

         (3) Wie/        den/        (1) Lip・                                         pen,

ここではじめて Wie がシンコペーションではなく表拍で入ってくる。また、前行とは打って変わって、長音を基本としてリズムに戻る。

 

  (1) won・                                      nig/    (1) mild,                                         //  süs

長音がますます主流になっていく。しかし、mild のあと、アウフタクトで次の行が入り込む。そしてここは、ld と s で子音が連続するため、音楽としては半音階で切れ目なく降りていくにもかかわらず、滑らかにはつながらず、一種の間というか、濁音(有声音)の s を出すためのタメがある。

ちなみに、この濁音(有声音)s はきわめて肉感的であり、官能的な音だと思う。それが「甘やか」という甘美な言葉と重なる。ここにはどこかオノマトペ的なものがある。音それ自体が意味内容を増幅させる。 

 

süs・     ser/  (3) A・tem   (1) sanft/                       ent・ (1) weht ---

weht の w の音は、英語の v と同じように、下唇を震わせる音である。つまり、音が出るまで一瞬の間というかタメがある。いかにしてアウフタクト的になる前小節の ent を言い切って、遅れずに、 we の音を1拍目に出すかが難しいところだろう。

 

      (1)Freun・  de!/                                                    (1) Seht!

Seht はアウフタクト的に、ズらうすように入ってきたのに、ここではっきりと、呼びかける言葉が、1拍目の強拍に重なることがなる。「愛の死」のなかでもっともコミュニケーション的な箇所かもしれない。

 

(1) Fühlt/ und/ (3) seht/ ihr's/        (1) nicht?

前行の流れが続く。呼びかけが強拍と呼応する。

 

(1)                   re  / ich/             nur            (1) die・          se/   (3) Wei・se,

前に書いたように、ここからイゾルデの言葉はますます内面に沈静していく。周りに呼びかけるのではなく、自分の感じているものをつぶやいていく。この2小節は言葉と音楽がきれいにはまっている。


die/     so/      (3) wun・der- (1)voll/ und/    (3) lei・                    se,         (3) Won

die/ so/ wun で seht/ihr's/ nicht にあったような、高・低・高の音高移動になり、その後は、wun から lei まで、デクレッシェンドに呼応するように、自然に音が下がっていく。しかし、lei から se で音が上がり、そのまま、次の行の Won に続く。ここは se という母音から W という子音へのつながりであり、そこまで苦しくはないところだろう。たが、ここは言葉の流れ上、言葉の意味の流れ上、息継ぎが入ってしかるべきところだ。だから、Won を3拍目ジャストで入らないといけないわけだが、W の音は摩擦音であり、音の性質上遅れるものだから、原理的に難しい箇所でもある。

                 
Won・                                                  ne/

このように、ひとつの音節をスラーで繋ぎながら音程を行き来するのは、「愛の死」のなかで多用されるものではないが、ひじょうに効果的な箇所で使われるので、強い印象を残すところでもある。3幕のイゾルデの出番は少ないが、最後の最後でこの音程移動を繊細にこなすだけの体力と気力が残っているかどうか。

 

  (1) kla・        gend,//     (3) al・    les/       (1) sa・          gend,     //  (3)mild/         ver

(1) söh・        nend            (3) aus/     ihm/           (1) ・        nend,   .//     (3) in/ mich/ 

ここはこれまでと違って、小節のなかで詩行が完結せず、かぶせるように3拍目で次の行が割り込んでくる。しかし、言葉としては強拍の1拍目と3拍目にアクセントが重なるようになっているため、音楽の急激な忙しさに比べると、言葉はむしろ安定する。シンコペーション的なズラシがない。

Mild の音程の上下は、すぐ前の Wonne と同じだ。長さが違うだけで。

 

(1) drin・get,//  (3) auf/ sich/ (1) schwin・get,  //  (3) hold/ er・(1) hal・lend // (3) um/ mich/ (1) klin ・get?

3拍目が起点となる。3拍目が付点4分音符で、それが弾むような推進力を生み出し、その重なりが klinget の長音につながる。ここまでで一番長い伸ばしになる。

 

                      (3) Hel・         ler/                 (1) schal・        lend, // (3) mich/ um・

3拍目が起点となる流れが続く。ただ、ここでは、3連符がアウフタクト的に、かつ、上昇音型で3拍目のまえにかぶさってくる。難しいのは、音楽としては盛り上がりたいところだが、言葉としてはノンアクセントの音節であり、むしろ3拍目のアクセントにつなげるための助走のようにしたいところである。また、この上昇音型は子音で終わるため、3拍目の強拍/アクセントをはっきりと入るためには、3拍目の前で切らねばならない。かなり繊細な操作を求められる箇所だ。

 

(1) wal・    lend, //(3) sind/ es/ (1) Wel・len (3) sanf・ter/ Lüf・te? //            Sind/ es/ 

3連符が続く。ただ、lend とノンアクセントの箇所に比べると、sanf とまだ3拍目の強拍を延ばしたまま3連符に入るところでは、音価が倍である(16分音符の3連符と、8分音符の3連符)。

Sind es でふたたびアウフタクトで入る。つまりここで、また、シンコペーション的なリズムのズラしが戻ってくる。

 

   (1) Wo・        gen    (3) won・ni・ger/         (1) Düf・te?         //                   Wie/ sie/ 

ここは1拍目の推進力で前に進めるところだろうか。しかし、Wie sie ではまたアウフタクトにかぶせて次の行が始まる。

 

(1) schwel・        len,         //     (3) mich/ um・

すでにおなじみの付点4分音符が1拍目にかかって、うまくまとまるところ。しかし、かぶさるように入る次の行では、はっきりとシンコペーション的になる。3拍目が休みで、3拍目の裏拍に言葉のアクセントがつく。Sind es、Wie sie という布石はあったけれど、ここでまた最初のほうによくあった強拍のズラシが回帰する。

 

  (1) rau・      schen,          (3) soll/   ich/         (1) at・         men, //     (3) soll/    ich/ 

付点4分音符の流れと、3拍目の入りを休んで裏拍から入る流れが2度繰り返される。同じリズムパターンの反復は、後半に入って増えていく。

 

(1) lau・schen?   //                      Soll/ ich/      (1) schlürfen, //(3)un・ter・tau・chen?

       Süss/        in/ (3) Düf・ten//mich/ ver・(1) hau・chen?   //                     In/ dem/ 

アウフタクトが8分音符の3連符で3回続いて、8分音符のアウフタクトに戻る。

 

        (1) wo・            gen・den/          (1) Schwall, //   in/ dem/ (3) ・         nen・den

そして「愛の死」のなかで唯一の変拍子、というほどでもないけれど、4分の4の流れの中で、1小節だけ4分の2になる。4分音符の伸ばしがそのまま次の8分音符3連符になだれ込み、それが2度繰り返される。

 

(1) Schall, // (3) in/ des/ (1) Welt/-          (1) A・            tems  (1) we・       hen・  dem/ 

(1) All ---

おそらくここが音楽的には頂点だろう。長音で音楽が広がる。Welt-Atems、「世界の吐息の」という、わかるようなわからないようなフレーズが飛び出す。

 

                        er・(3) trin・                          ken, //                           ver

ここからはエピローグという感じだろうか。接頭辞を持つ動詞が2つ続く。接頭辞はアウフタクトのように投げ出される。

 

  (1) sin・                           ken ---

 

                     un・                                        be・   (1) wusst ---   //                      höch

そしてここでふたたび、「愛の死」のリズムパターンの基調の一つである、シンコペーション的なリズムが使われる。

 

                                                        ste/              (1) Lust!

最後の音 Lust は、口を大きく開く音ではない。それで言えば、wu も、höch もそうである。つまり、「愛の死」の最後はむしろ口を狭めた音で終わる。それはデクレッシェンドしていく音楽とも、死に絶えるイゾルデとも呼応するものではあるけれど、höch/ ste/ Lust が、高・低・高という、Seht ihr’s nichtで使われた音高関係の反復になっているため、ただたんにデクレッシェンドすればいいわけでもない。とくに、歌としては最後の音であり、言葉としても締めくくりである音が、アウフタクトの音からかなり跳躍しており、しかも、これを低い音よりもピアノにしながら、音としては響かせるのは難しいだろう。何といっても、ここまでずっと歌い続けであるのだから。

ワーグナーは歌手に容赦しない書き方をしているように思う。

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析3(楽譜を添えて)

楽譜を添えて

では楽譜を添えてみるとどうなるか。1拍目と3拍目の入りと言葉のアクセントがシンクロしているところは太字の斜体にして、括弧で1拍目か3拍目を明記する。シンコペーションで言葉のアクセントが入ってくる箇所は赤字にする。また、詩行の終わりが小節の終わりと呼応せず、なだれ込むように小節途中で終わった前行に続けて次行が始まる箇所を青字で示す。

 

 (1) Mild/ und/ (3) lei・se          wie/ er/  (3) ・chelt,

 

          wie/     das/(3) Au・ge    (1) hold/     er/ (3) öff・net ---

 

                     seht/      ihr's/   (3) Freun・de? 

 

                    Seht/ ihr's/  (3)nicht?

 

                       Im・mer/            (3) lich・ter  

 

              wie/ er/            (3) leuch・tet,

 

                             (3)stern/                           -um・(3)strah・let(1)hoch/ sich/ (3) hebt?

 

        Seht/ ihr's/    (3) nicht?

        

            Wie/ das/      (3) Herz/ ihm           (1) mu・tig/            (3) schwillt,  

 

               voll/               und/        (1) hehr                im/      (1)Bu・sen/ihm/(3)quillt?

 

         (3) Wie/        den/        (1) Lip・                                         pen,

 

  (1) won・                                      nig/    (1) mild,                                         //  süs

 

süs・     ser/  (3) A・tem   (1) sanft/                       ent・ (1) weht ---

 

      (1)Freun・  de!/                                                    (1) Seht!

 

(1) Fühlt/ und/ (3) seht/ ihr's/        (1) nicht?

 

(1)Hör                           / ich/             nur            (1) die・          se/   (3) Wei・se,

             
die/     so/      (3) wun・der- (1)voll/ und/    (3) lei・                    se,         (3) Won


                 
Won・                                                  ne/

 

  (1) kla・        gend,//     (3) al・    les/       (1) sa・          gend,     //  (3)mild/         ver

(1) söh・        nend            (3) aus/     ihm/           (1) ・        nend,   .//     (3) in/ mich/ 

 

(1) drin・get,//  (3) auf/ sich/ (1) schwin・get,  //  (3) hold/ er・(1) hal・lend // (3) um/ mich/ (1) klin ・get?

 

                      (3) Hel・         ler/                 (1) schal・        lend, // (3) mich/ um・

 

(1) wal・    lend, //(3) sind/ es/ (1) Wel・len (3) sanf・ter/ Lüf・te? //            Sind/ es/ 

 

   (1) Wo・        gen    (3) won・ni・ger/         (1) Düf・te?         //                   Wie/ sie/ 

 

(1) schwel・        len,         //     (3) mich/ um・

 

  (1) rau・      schen,          (3) soll/   ich/         (1) at・         men, //     (3) soll/    ich/ 

 

(1) lau・schen?   //                      Soll/ ich/      (1) schlürfen, //(3)un・ter・tau・chen?

 

       Süss/        in/ (3) Düf・ten//mich/ ver・(1) hau・chen?   //                     In/ dem/ 

 

        (1) wo・            gen・den/          (1) Schwall, //   in/ dem/ (3) ・         nen・den

(1) Schall, // (3) in/ des/ (1) Welt/-          (1) A・            tems  (1) we・       hen・  dem/ 

(1) All ---

 

                        er・(3) trin・                          ken, //                           ver

 

  (1) sin・                           ken ---

 

                     un・                                        be・   (1) wusst ---   //                      höch

 

                                                        ste/              (1) Lust!

 

こうして見ていくと、前半は小節単位で詩行が収まっているのに、後半に行くにしたがって小節線をまたいで詩行=旋律が流れていくのが見て取れる(青字部分が増える)。シンコペーション(赤字)は全体を通してみられるが、前半のほうが多い。また、シンコペーション的になるのは、そこまで強くないアクセントを持つ音、たとえば wie が多い。

初めて交番に入る(落とし物を届けるために)。

交番に入ったのはもしかすると生まれて初めてのことだったかもしれない。落とし物を届けるために立ち寄ったのだけれど、それほど広くないスペースに4人もいて、そんなに人員が要るのかと反射的に思ったけれど、緊急事態、不測の事態に対応するためには、何があっても交番が空にならないシフトを組まなければならないということなのだろうか(そういえば4人とも男だった)。

最近よく利用しているレンタル電動自転車のかごに、かなり高価なイヤホンが残されている——しかも2つも!――のに気がつき、もしかしたら持ち主が戻ってくるかもしれないからそのまま放置したほうがいいのかもと思ったけれど、今夜以降雨になる。だから、なにか手を打った方がいいだろうと思って、電動自転車を予約するためのアプリを見てみるが、落とし物の連絡のような項目はない(このアプリはとにかく苦情を受け付けたくないのか、不具合のレポートがかなりやりにくい設計になっている)。

仕方ないので運営会社に電話すると、なんとも気のない返事。まあ、交番に届けてくれてもいいんですけどね、ぐらいのノリ。とはいえ、昨日、なかなか見事な偶然のめぐりあわせで今日の演劇のチケットが買えたということもあり、多少の善行をしておいてもよいだろうと思って、近場の交番に届けることにした。

なんとなく話には聞いていたけれど、落し物は、3ヵ月たって所有者が現れなかったら拾った者のものになるのですね。また、お礼を言うために、所有者が現れたときに電話番号を伝えるかどうかも訊ねられたけれど、どちらも拒否した。所有者が見つかったかどうかだけは知りたいところだけれど、警察としてそれはできないとのことだった。所有者が現れた時点でこの件は警察の手を離れるので関与できない、ということらしい。

というわけで、善行をしたのかお節介をしたのかわからないけれど、悪いことはしなかった。

ああ、そういえば、警察に拾い主の情報が残るというのは、何か微妙に理不尽な気もする。調書を作る必要上仕方ないのはわかるが、自分の個人情報が警察文書に残されるのは、ちょっと納得がいかない。

ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』「愛の死」の分析2

音節で分ける

西洋語は音節に分割できる。音節は、母音を核として、その前後にひとつまたは複数の子音をまとう。たとえば、Liebe は Lie と be の2音節、Tod は1音節の単語になる。

ここで注意したいのは、母音は、レター(綴り)ではなく、サウンド(音)で数えることだ。ドイツ語の場合、ie という「綴り」は、「イー」という長母音(という言い方は英語の言い方かもしれないが)を意味する「記号」であると言ってもいい。

辞書を見ると音節は「・」で区切っているので、それに倣うことにする。また、単語間の切れ目は「/」で示す。

Mild/ und/ lei・se
wie/ er/ lä・chelt,
wie/ das/ Au・ge
hold/ er/ öff・net ---
seht/ ihr's/ Freun・de?
Seht/ ihr's/ nicht?
Im・mer/ lich・ter
wie/ er/ leuch・tet,
stern/-um・strah・let
hoch/ sich/ hebt?
Seht/ ihr's/ nicht?
Wie/ das/ Herz/ ihm
mu・tig/ schwillt,
voll/ und/ hehr
im/ Bu・sen/ ihm/ quillt?
Wie/ den/ Lip・pen,
won・nig/ mild,
süs・ser/ A・tem
sanft/ ent・weht ---
Freun・de!/ Seht!
Fühlt/ und/ seht/ ihr's/ nicht?
Hör/ ich/ nur
die・se/ Wei・se,
die/ so/ wun・der-
voll/ und/ lei・se,
Won・ne/ kla・gend,
al・les/ sa・gend,
mild/ ver・söh・nend
aus/ ihm/ tö・nend,
in/ mich/ drin・get,
auf/ sich/ schwin・get,
hold/ er・hal・lend
um/ mich/ klin・get?
Hel・ler/ schal・lend,
mich/ um・wal・lend,
sind/ es/ Wel・len
sanf・ter/ Lüf・te?
Sind/ es/ Wo・gen
won・ni・ger/ Düf・te?
Wie/ sie/ schwel・len,
mich/ um・rau・schen,
soll/ ich/ at・men,
soll/ ich/ lau・schen?
Soll/ ich/ schlür・fen,
un・ter・tau・chen?
Süss/ in/ Düf・ten
mich/ ver・hau・chen?
In/ dem/ wo・gen・den/ Schwall,
in/ dem/ tö・nen・den/ Schall,
in/ des/ Welt/-A・tems
we・hen・dem/ All ---
er・trin・ken,
ver・sin・ken ---
un・be・wusst ---
höch・ste/ Lust!

 

各行の音節数

ここに各行の音節数を冒頭に書き入れてみる。

4音節 Mild/ und/ lei・se
4音節 wie/ er/ lä・chelt,
4音節 wie/ das/ Au・ge
4音節 hold/ er/ öff・net ---
4音節 seht/ ihr's/ Freun・de?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Im・mer/ lich・ter
4音節 wie/ er/ leuch・tet,
4音節 stern/-um・strah・let
3音節 hoch/ sich/ hebt?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Wie/ das/ Herz/ ihm
3音節 mu・tig/ schwillt,
3音節 voll/ und/ hehr
5音節 im/ Bu・sen/ ihm/ quillt?
4音節 Wie/ den/ Lip・pen,
3音節 won・nig/ mild,
4音節 süs・ser/ A・tem
3音節 sanft/ ent・weht ---
3音節 Freun・de!/ Seht!
5音節 Fühlt/ und/ seht/ ihr's/ nicht?
3音節 Hör/ ich/ nur
4音節 die・se/ Wei・se,
4音節 die/ so/ wun・der-
4音節 voll/ und/ lei・se,
4音節 Won・ne/ kla・gend,
4音節 al・les/ sa・gend,
4音節 mild/ ver・söh・nend
4音節 aus/ ihm/ tö・nend,
4音節 in/ mich/ drin・get,
4音節 auf/ sich/ schwin・get,
4音節 hold/ er・hal・lend
4音節 um/ mich/ klin・get?
4音節 Hel・ler/ schal・lend,
4音節 mich/ um・wal・lend,
4音節 sind/ es/ Wel・len
4音節 sanf・ter/ Lüf・te?
4音節 Sind/ es/ Wo・gen
5音節 won・ni・ger/ Düf・te?
4音節 Wie/ sie/ schwel・len,
4音節 mich/ um・rau・schen,
4音節 soll/ ich/ at・men,
4音節 soll/ ich/ lau・schen?
4音節 Soll/ ich/ schlür・fen,
4音節 un・ter・tau・chen?
4音節 Süss/ in/ Düf・ten
4音節 mich/ ver・hau・chen?
5音節 In/ dem/ wo・gen・den/ Schwall,
5音節 in/ dem/ tö・nen・den/ Schall,
5音節 in/ des/ Welt/-A・tems
4音節 we・hen・dem/ All ---
3音節 er・trin・ken,
3音節 ver・sin・ken ---
3音節 un・be・wusst ---
3音節 höch・ste/ Lust!

こうしてみると、4音節でワンセットとなっている行が多いことが分かる。しかし、奇数(3た5)の行も少なくないし、奇数が連続する行もある。

 

強勢(アクセント)の位置

しかし、音節にだけ気を取られてはいけない。重要なのは、どこに強勢(アクセント)がくるかである。ひとつの単語に複数の音節があるということは、音節のあいだに強弱のヒエラルキーがあるということだ。たとえば、Lie・be であれば、アクセントは1音節目の Lie にある。

アクセントは、単語内の問題にとどまらない。単語間の問題、つまり、フレーズやセンテンスの問題でもある。Die Liebe と定冠詞を付けた場合、この2単語=3音節のうち、はっきりとしたアクセントが付くのは Lie だけのはずだ。Die と be は、die のほうが音価が大きい(音が長い)ため、こちらのほうが若干強くなるだろう。

とりわけドイツ語の場合、冠詞は頭拍ではなく、アウフタクトで入ってくる。だから、die Lie・be は、・3ではなく、・2という感じになるところだ。

ともあれ、はっきりとアクセントのつく音節を太字にする。

4音節 Mild/ und/ lei・se
4音節 wie/ er/ ・chelt,
4音節 wie/ das/ Au・ge
4音節 hold/ er/ öff・net ---
4音節 seht/ ihr's/ Freun・de?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Im・mer/ lich・ter
4音節 wie/ er/ leuch・tet,
4音節 stern/-um・strah・let
3音節 hoch/ sich/ hebt?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Wie/ das/ Herz/ ihm
3音節 mu・tig/ schwillt,
3音節 voll/ und/ hehr
5音節 im/ Bu・sen/ ihm/ quillt?
4音節 Wie/ den/ Lip・pen,
3音節 won・nig/ mild,
4音節 süs・ser/ A・tem
3音節 sanft/ ent・weht ---
3音節 Freun・de!/ Seht!
5音節 Fühlt/ und/ seht/ ihr's/ nicht?
3音節 Hör/ ich/ nur
4音節 die・se/ Wei・se,
4音節 die/ so/ wun・der-
4音節 voll/ und/ lei・se,
4音節 Won・ne/ kla・gend,
4音節 al・les/ sa・gend,
4音節 mild/ ver・söh・nend
4音節 aus/ ihm/ ・nend,
4音節 in/ mich/ drin・get,
4音節 auf/ sich/ schwin・get,
4音節 hold/ er・hal・lend
4音節 um/ mich/ klin・get?
4音節 Hel・ler/ schal・lend,
4音節 mich/ um・wal・lend,
4音節 sind/ es/ Wel・len
4音節 sanf・ter/ Lüf・te?
4音節 Sind/ es/ Wo・gen
5音節 won・ni・ger/ Düf・te?
4音節 Wie/ sie/ schwel・len,
4音節 mich/ um・rau・schen,
4音節 soll/ ich/ at・men,
4音節 soll/ ich/ lau・schen?
4音節 Soll/ ich/ schlürfen,
4音節 un・ter・tau・chen?
4音節 Süss/ in/ Düf・ten
4音節 mich/ ver・hau・chen?
5音節 In/ dem/ wo・gen・den/ Schwall,
5音節 in/ dem/ ・nen・den/ Schall,
5音節 in/ des/ Welt/-A・tems
4音節 we・hen・dem/ All ---
3音節 er・trin・ken,
3音節 ver・sin・ken ---
3音節 un・be・wusst ---
3音節 höch・ste/ Lust!

こうしてみると、だいたい各行に、アクセントのつく音節が2つあることがわかる。この1行2アクセントのパターンにそって、そこまで強くはないがある程度は強い音節にアンダーラインを引いてみる。

4音節 Mild/ und/ lei・se
4音節 wie/ er/ ・chelt,
4音節 wie/ das/ Au・ge
4音節 hold/ er/ öff・net ---
4音節 seht/ ihr's/ Freun・de?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Im・mer/ lich・ter
4音節 wie/ er/ leuch・tet,
4音節 stern/-um・strah・let
3音節 hoch/ sich/ hebt?
3音節 Seht/ ihr's/ nicht?
4音節 Wie/ das/ Herz/ ihm
3音節 mu・tig/ schwillt,
3音節 voll/ und/ hehr
5音節 im/ Bu・sen/ ihm/ quillt?
4音節 Wie/ den/ Lip・pen,
3音節 won・nig/ mild,
4音節 süs・ser/ A・tem
3音節 sanft/ ent・weht ---
3音節 Freun・de!/ Seht!
5音節 Fühlt/ und/ seht/ ihr's/ nicht?
3音節 Hör/ ich/ nur
4音節 die・se/ Wei・se,
4音節 die/ so/ wun・der-
4音節 voll/ und/ lei・se,
4音節 Won・ne/ kla・gend,
4音節 al・les/ sa・gend,
4音節 mild/ ver・söh・nend
4音節 aus/ ihm/ ・nend,
4音節 in/ mich/ drin・get,
4音節 auf/ sich/ schwin・get,
4音節 hold/ er・hal・lend
4音節 um/ mich/ klin・get?
4音節 Hel・ler/ schal・lend,
4音節 mich/ um・wal・lend,
4音節 sind/ es/ Wel・len
4音節 sanf・ter/ Lüf・te?
4音節 Sind/ es/ Wo・gen
5音節 won・ni・ger/ Düf・te?
4音節 Wie/ sie/ schwel・len,
4音節 mich/ um・rau・schen,
4音節 soll/ ich/ at・men,
4音節 soll/ ich/ lau・schen?
4音節 Soll/ ich/ schlürfen,
4音節 un・ter・tau・chen?
4音節 Süss/ in/ Düf・ten
4音節 mich/ ver・hau・chen?
5音節 In/ dem/ wo・gen・den/ Schwall,
5音節 in/ dem/ ・nen・den/ Schall,
5音節 in/ des/ Welt/-A・tems
4音節 we・hen・dem/ All ---
3音節 er・trin・ken,
3音節 ver・sin・ken ---
3音節 un・be・wusst ---
3音節 höch・ste/ Lust!

こうしてみると、各行の音節数にかかわらず、ほぼほぼ、各行2アクセントが貫かれている。

 

音節と小節

では、これが小節とどう対応するのか。どこか小節の1拍目や3拍目(強拍)でどこが2拍目や4拍目(弱拍)になるのか。行の下にそれを書き込んでみる。

4音節 Mild/ und/ lei・se

   1         2      3      4   

4音節     wie/ er/ ・chelt,

           1       2       3       4

4音節     wie/ das/ Au・ge

           1       2         3      4      

4音節 hold/ er/ öff・net ---

            1    2        3      4
4音節       seht/ ihr's/ Freun・de?

            1          2             3        4
3音節       Seht/ ihr's/ nicht?

             1         2             3  4
4音節        Im・mer/ lich・ter

             1        2           3       4  
4音節        wie/ er/ leuch・tet,

              1       2         3         4

4音節                   stern/-um・strah・let

              1               3  1              3               4
3音節 hoch/ sich/ hebt?

               1               3         4

3音節         Seht/ ihr's/ nicht?

               1         2            3         4

4音節         Wie/ das/ Herz/ ihm

                1       2         3        4

3音節 mu・tig/ schwillt,

            1   2               3          4
3音節          voll/ und/ hehr

            1       23      4       1


5音節 im/ Bu・sen/ ihm/ quillt?

           4     1       2                3        4

4音節            Wie/ den/ Lip・pen,

           12         3    4        123      4   

3音節 won・nig/ mild,

           123   4         123
4音節 süs・ser/ A・tem

           41      2    3      4
3音節 sanft/ ent・weht ---

           123   4           12           34

3音節 Freun・de!/         Seht!

             1         2      34    123

5音節 Fühlt/ und/ seht/ ihr's/ nicht?

              1    2          3       4        12       34

3音節 Hör/ ich/ nur

            12    3      4  
4音節 die・se/ Wei・se,

             1   2       3        4
4音節 die/ so/ wun・der-

             1    2      3    4 
4音節 voll/ und/ lei・se,

             1      2    341    2    
4音節 Won・ne/ kla・gend,

         34123    4     1        2   

4音節 al・les/ sa・gend,

           3     4      1     2

4音節 mild/ ver・söh・nend

            34               1        2   

4音節 aus/ ihm/ ・nend,

            3    4        1      2 
4音節 in/ mich/ drin・get,

           3  4            1       2
4音節     auf/ sich/ schwin・get,

            3     4                 1        2
4音節 hold/ er・hal・lend

            3    4         1       2
4音節 um/ mich/ klin        ・get?

            3  4            123412       3       4
4音節     Hel・ler/ schal・lend,

          1    23    4         12     

4音節 mich/ um・wal・lend,

             3      4        12

4音節      sind/ es/ Wel・len

             3       4         1    2
4音節 sanf・ter/ Lüf・te?

            34               1     2      

4音節         Sind/ es/ Wo・gen

             3     4              1  2
5音節 won・ni・ger/ Düf・te?

             3    4                 1       2
4音節         Wie/ sie/ schwel・len,

             3     4                   1   2
4音節         mich/ um・rau・schen,

              3         4           1     2
4音節 soll/ ich/ at・men,

             3  4        1  2
4音節         soll/ ich/ lau・schen?

             3         4         1    2
4音節         Soll/ ich/ schlürfen,

              3       4                1       2
4音節 un・ter・tau・chen?

            3              4

4音節      Süss/ in/ Düf・ten

            1         2        3

4音節 mich/ ver・hau・chen?

            4                 1         2

5音節 In/ dem/ wo・gen・den/ Schwall,

          4       [2/4]  1  2                          1  
5音節     in/ dem/ ・nen・den/ Schall,

           2                 3   4                       1 

5音節 in/ des/ Welt/-A・tems

           3 4        1234  123   4
4音節 we・hen・dem/ All ---

            12     3    4          1234


3音節            er・trin・ken,

             1    2         3        4 

3音節      ver・sin・ken ---

              4         12      3
3音節 un・be・wusst ---

           23 4           12

3音節 höch・ste/ Lust!

            4123    4     1234

こうしてみると、1)アクセントのある音節と強拍がおおむね一致していること、しかし、それと同時に、2)ひとつまえでは強拍と音節がシンクロしていたパターンでも、シンコペーションでそこを外してくる箇所が随所にあること、がわかる。

ただ、3)1拍目が休止の場合は、3拍目で言葉のアクセントと音楽のリズムのアクセントがシンクロするようになっている。

また、4)前半はおおむね1行が2小節か1小節で完結するが、後半に行くにしたがって、長音が増える。

5)後半は、行の冒頭が3拍目から始まる箇所が増え、1拍目から始まる箇所が減る。つまり、詩行の終わりで休みが入らず、なだれこむように次の行に行く箇所が増えていく。その結果、音楽の流動性は高まる。