うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

20231015 「ブルターニュの光と風」@静岡市美術館を観る

20231015@静岡市美術館

「光」と「風」だけカラーで、妙に気合の入ったレタリングになっているし、目玉として謳われている画家のなかにモネやゴーギャンが入っているから、「なんだよ、またフランス印象派展か」と思っていたら、力点は「ブルターニュ」のほうに、さらに言えば、小さめのフォントで隙間を埋めるように掲げられている「フランス神秘と伝統の地へ」のほうにあった。そして、作品を貸与してくれた先方である「カンペール美術館」という情報があたかもデザインであるかのように極小の文字になっているのを見るほどに湧き上がってくる羊頭狗肉感。

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しかし、日本でこの企画を売り出そうとしたら、こうならざるをえないのはわかる気はする。「カンペール美術館」のネームバリューで来場者は増えないだろうし、「ブルターニュ」推しでも足りないだろう。だから、美術館名でも、フランスの地方名でもなく、光と風というモチーフを前面に押し出した題名になったのだろう。

フランス北西部に位置するブルターニュは、地形的な独自性に加えて、文化的にも古風なところ——ケルト的な出自(英仏海峡を挟んだ対岸にはコーンウォールがある)やカトリック性——があり、だからこそ、近代化するフランスが魅了されてきた地であるらしい。この展覧会は、そのような地であるブルターニュに魅せられたパリの画家たちの作品を、19世紀前半の古典主義的なものから、印象派、ポスト印象派モダニズムにまでたどっていく。しかし、果たしてそれがどこまで「光と風」の主題系なのかは、なかなか疑わしい感じもするところ。

言い方は悪いが、ここで展示されている作品は、贔屓目に言っても、1.5流という感じがする。大傑作はない。郷土史ならぬ、郷土絵画とでも言えばいいだろうか、この地域を語るうえで外せない作品がカバーされてはいるものの、その選定基準は、作品のクオリティではなく、画題にあるのだろう。だから、駄作とまでは言わないけれど、絵画単体で見ると、オリジナルというよりは亜流、ユニークというよりは当時の流行をなぞったような描きっぷりが目に付く。もちろん、なかには、ひじょうに面白い試みをしている画家の作品もあるけれども、全体として見た場合、資料的価値のほうが勝っているような印象も受ける。

それにしても、この展覧会が、富士山にまつわる絵画を収集している県立美術館ではなく、市美術館で開かれてるというのは、何か皮肉な感じがする。地元をフィーチャーした絵画を収集しようというカンペール美術館の試みは、企画展を中心に運営する市美術館ではなく、自前の収蔵品による常設展を大切にしている県立美術館と響き合うものではないかと思うから。

しかし入館料1400円はインフレのご時世とはいえ高くないか。割高感は否めない。