うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

得体の知れないおしゃれさ:インクルーシヴなヴァンジ彫刻庭園美術館

20221217。長泉町にあるクレマチスの丘に点在するヴァンジ彫刻庭園美術館とベルナール・ビュッフェ美術館と井上靖記念館を巡ってきた。

ヴァンジ彫刻庭園美術館は、イタリア人彫刻家のジュリアーノ・ヴァンジの作品を収蔵する美術館。庭園と冠されているように、土地のもともとの傾斜を生かし(ているのだと思う)、美術館を取り巻くように庭が広がっており、そこに彫刻が配置されている。冬だから花々は寂しい様子だったが、きっと春や秋には花が咲き乱れているのだろう。

美術館の紹介によれば、ヴァンジは1931年生まれで、30歳前後の時期に数年のあいだブラジルに渡っている。そのせいなのか、大理石やブロンズのような伝統的な素材を確かな技術で扱っている一方で、造形はデフォルメ的。反リアリズムとまでは言わないし、モダニズムと言うには具象性が強いものの、彫像の表情、とくに、古代エジプトを思わせるような、象嵌による大きく見開いた目、離れた目、あえて彫りを浅くしたような顔など、原始芸術にインスパイアされたように感じるところがある。

美術館は、2階建てと言おうか、3階建てと言おうか。前庭からの入り口は階段の踊り場だけで、そこから下ったところに中二階のような玄関スペースがあり、建物を縦断する壁まで伸びる通路が伸びている。実質的な展示スペースとなるのは楕円形のような1階。吹き抜けの広大なスペース。壁は打ちっぱなしのコンクリート。しかし、無機的な感じはなく、高い天井のせいか、贅沢に取られたスペースのせいか、教会のような静謐さがある。空間自体がひとつの彫刻作品と言ってもいいぐらい、雰囲気がいい。

空間鑑賞型であり、作品体験型の美術館でもある。仕切りのないオープンスペースには、あえて数を絞ったのであろう作品がまばらに置かれている。外の彫刻もそうだったけれど、館内の彫刻も一部は手で触ることができるようになっている。作品解説はなく、その代わりに、あちこちにNaviLens Goというアプリで読み込むQRコードがあり、それをスマホで読み取ると解説を読み上げてくれる。それ以外にも、視覚障碍者にたいする気づかいが施設に構造的に組み込まれている。

美術館のホームページを見ると開館は2002年。しかし、ヴァンジというイタリアの芸術家の個人美術館をこの地にあえて作った経緯は記されていない。

ということが気になったのは、いまこの美術館が存続の危機にさらされており、県に存続支援を求めているからだ。経営悪化は、Covidによる入場者数の激減の影響が大きいようだ。美術館自体としても、さまざまな鑑賞者に開かれた態度にしても、存続に価する場所だとは思う。しかし、いまひとつ正体がわからない感じもする。

美術館併設のカフェやレストランやショップがおしゃれなのは当然かもしれないが、ここはまた飛び抜けておしゃれだ。レストランに通じる道は庭園の一部であり、木々や花々の迷路の奥にある。レストランの内装は美術館の延長のようであり、同じ美意識に貫かれている。窓からは庭園や彫刻が見渡せる。

美術館は12月25日で休館。それにともない、併設のレストランもカフェもショップも閉店になるという。そのせいだろう、ショップではリーデルやシュピゲラウのワイングラスが一脚250円で投げ売りされていた。