うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「諸動機の束の全体」(ブレヒト「[弁証法についてのメモ]」)

「歴史の本や劇作のなかでは、人間の行動についてはたいてい、わずかすぎる動機しか挙げられていない。まるでたったひとつの動機から行為がなされたかのような、外見が生み出されている。そういうえがきかたはうまくない。というのは、主要な動機を知ればなんらかの行為を<理解する>ことはできるとしても、似たような行為を防止したり、喚起したりすることはできないからだ。特定の動機を特定の行為に表面的に結びつけるだけならば、ひとつの動機を挙げておけば済むけれども、ある人間なり人間集団なりのある行為を防止したり、喚起したりしようとすれば、決定的に作用する主要な動機だけでなく、諸動機の束の全体を見つけださなくてはならない。一般にそういう束が、はじめてひとつの行為を可能にするのだ。なぜなら、諸動機の束のなかには必ず数々の矛盾が束ねこまれており、そしてひとが行為者に影響を及ぼしうるのは、それらの矛盾を強めたり、治まらせたりすることによってだからである。」(ブレヒト「[弁証法についてのメモ]」)