うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

アメリカ観察記断章。ドーナツ。

アメリカ観察記断章。長らくすごした学内寮を出て、隣町に引っ越した。大量の本を積んだ車を移動図書館のようにしてそこらのコーヒーショップを渡り歩いている。金がないので外食は控えているが、多少は食べる楽しみが欲しいのでコーヒーのお供にドーナツ屋めぐりをやっている。アメリカではその場で焼き上げられ棚に並べられる(つまりよそで作られて袋詰にされて売られるのではない)ドーナツはだいたい4つのカテゴリーに分けられるように思う。  

ひとつはスーパーのパティスリーコーナー。アメリカではチェーンのスーパーでもベーカリーコーナーがあり、毎日焼き立てパンが売られている。ドーナツもそこで焼かれており、これはどの種類も1ドル前後。味は普通。くどめの甘さで、平凡な材料で平凡に作られたものだ。  

ふたつめはチェーン系のドーナツ屋。これはあえて行くまでもないだろうと行ったことがない。

みっつめ。ローカルで長くやってきたドーナツ屋。値段はスーパーのものと同じかほんの少し高い1ドル10セントから25セントあたりが相場。いかにも手作りな感じで、悪く言えば素人っぽく、良く言えば暖かみのあるほんわかした味。ちなみにアメリカのドーナツ屋は日本のパン屋のように買い手がトングで選ぶのではなく、すべてケースに入っており店員に選んでもらう形式だ。ローカルの個人経営と思しき店でもかなりの種類が並んでいるが、別の種類のものが同じトレイに載ってたりするし、狭い空間に大量に並んでいるのでごちゃごちゃしている。南カリフォルニアだからというのもあるのだろうが、こういうローカルなドーナツ屋はベトナム系や東南アジア系(中国系や韓国系ではなく)がやっている場合が多いようだ。  

よっつめ。上記3つがいわば旧態然とした昔ながらのレシピだとすると、4つめのカテゴリーはオーガニック系だとか変わり種だとかを前面に押し出すドーナツ屋である。みっつめのタイプのドーナツ屋の店内がどこか古ぼけて薄汚れており、中年のアジア人女性がカウンターにひとりでいるとすると、このタイプの店はとにかくお洒落に清潔で、店員はずっと若い。かなり洗練された味で、甘さも控えめだ。これは昔ながらのダイナーの安コーヒーと、最近のサードウェーブコーヒーの味の違いに似ていると思う。しかし高いのは高い。2ドル75セントから3ドル50セントあたりの価格帯。  

それにしてもYelp(アメリカの食べログのようなレストランレビューサイト)で探すと意外なほどたくさんドーナツ屋があるし、スーパーの安いものからローカルな昔ながらのものから最近のトレンディーなものまで、バラエティ豊かだ。日本で何かこれと似ているものがあるだろうかと考えてみたが、もしかすると日本におけるオニギリのポジションがアメリカにおけるドーナツのそれと近いかという気がした。コンビニで多種多様なものが売っているけれど、スーパーでも売っているし、かと思うと、ちょっと高級なおにぎり屋がある。お手軽で、どこでも買えて、小腹を充たすこともできるし、いくつか食べてしっかりお腹をふくらませることもできる。