特任講師観察記断章。「ルールを守る」というのは、ルールそれ自体には含まれていないメタ・ルールであり、ゲーム参加の大前提だ。ゲームの具体的なルールのために、自らの自由を制約することを自発的に受け入れることを意味する。公的で集団的な営為であるゲームのために、個人的自由を部分的かつ一時的に放棄する。
この自発的断念には、どことなく倫理的な清廉さがある。だからこそ、その高潔さを汚す輩に道徳的な怒りを募らせてしまう。けれども、自分が道徳的高みにいることを意識しているがゆえに、上から目線で、正当な権利として「あなたはルールを守っていない」という叱責を投げつけることは、「ルールを守る」というメタ・ルールをそもそも便宜的にしか受け入れていないプレイヤーに届くのだろうか。
「好きなことをやっているのなら文句を言うな」と口にする者は、「好きなこと」をすることが、それを可能にしたものに従属することと、バーター関係にあることを前提としているのだろうか。好きなことをすることは、悪魔に魂を売り渡すようなものだと考えているのだろうか。そこには代価が発生しており、あれこれのことをすることが、原理的にすでに禁じられていると信じているのだろうか。