うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「仮定法の亡霊に悩まされる」(東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』)

理論的には賛同しないが、35に近づきつつある身としては感覚的に納得させられてしまうところがある。「ぼくは考えた。ひとの生は、なしとげたこと、これからなしとげられるであろうことだけはなく、決してなしとげられなかったが、しかしなしとげられる《かもしれなかった》ことにも満たされている。生きるとは、なしとげられるはずのことの一部をなしとげたことに変え、残りをすべてなしとげられる《かもしれなかった》ことに押し込める、そんな作業の連続だ。ある職業を選べば別の職業は選べないし、あるひとと結婚すれば別のひととは結婚できない。直説法過去と直説法未来の総和は確実に減少し、仮定法過去の総和がそのぶん増えていく。/そして、その両者のバランスは、おそらく三五歳あたりで逆転するのだ。その閾値を超えると、ひとは過去の記憶や未来の夢よりも、むしろ仮定法の亡霊に悩まされるようになる。それはそもそもこの世界に存在しない、蜃気楼のようなものだから、いくら現実に成功を収めて安定した未来を手にしたとしても、決して憂鬱から解放されることがない。」(東浩紀クォンタム・ファミリーズ』28頁)