うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

ポスト古楽器な溶け合う響きにオールディーな構築性:Danish String Quartetのベートーヴェン

『ニューヨーカー』アレックス・ロスが褒めていたDanish String Quartetは久々に「これは!」という演奏だった。旋律の叙情性をエスプレッシーヴォで表現しつつ、どの音もほかの音と意識的に重ね合わされている。

音を時間的にシンクロさせるのはわりと機械的にできてしまうと思うけれど、互いの音の距離感――音符の楽譜上の距離でもあれば、実際に出てくる音の空間的な距離でもある――をリアルタイムで感じながら、それにリアルタイムで応えていくのは、どうやっても長い下ごしらえの時間を必要とするプロセスだ。

それが極めて高いレベルで結実している。セカンドとビオラビオラとチェロのような、音域の近いところだけではなく、ファーストとチェロのような遠いところまで、丁寧に突き詰めてある。

古楽器的な広がる溶け合う響きを経由したあとの音であるけれど、ここでは、重層的に構築的な縦の響きをもういちど作り直しているように感じる。響きがきれいに調和しており、実際の音量以上に広がって聞こえる。実演で聞いたらさぞや倍音が美しいだろう。

何となく音が出ているだけという箇所がない。それは音楽をやるうえで当たり前のことではあるのだけれど、その当たり前のことをすみずみまでやりつくした演奏は稀だ。そしてこの団体はその稀な演奏をコンスタントにできる団体のようだ。

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