うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

作為の彼方の無造作:Thomas Demengaのバッハ無伴奏チェロ組曲

超絶技巧もここまでくると、適当に弾きとばしているかのように聞こえてしまうが、もちろんそんなことはない。作り込まれた自然さであり、突き詰められた融通無碍だ。

この軽やかにスルスル前に進んでいく流れは、バロック弓と低いチューニングによるところが少なくないだろうけれど、ボウイングとポジション移動がとにかく上手いせいでもある。

それでいて、要になる音は、ほとんど耽美的なまでに楽器の胴全体を共鳴させる。朗々とした響きが、音楽の流れを緩やかにたわませるし、そのときの弓圧の抜き方やスピードの加速減速が絶妙なのだ。

ここまでチェロが小回りの効く小器用な楽器に聞こえる演奏も珍しいし、それでいながら、ここまでチェロという楽器特有の厚みある深い音色の魅力がわかる演奏も珍しい。

無伴奏チェロ組曲は、無伴奏ヴァイオリン組曲ほど曲が頭に入ってないからというのもあるだろうけれど、初めて聞いたような気がするし、何度聞いても毎回まったく新しい演奏のような気がしてしまう。

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