特任講師観察記断章。ものすごく些細なことだけれど、もしかしたらとても大事かもしれないこと。
なぜ学生は机の脇ではなく前に物を置くのだろう。ペンケース、ペットボトル、電子辞書、紙の辞書、スマホ。まるで教壇に立つ教師とのあいだに壁を作るかのように。なかには本当に盾のように使い、裏でこそこそスマホをいじっている不届き者もいるにはいる。けれど、大半の学生は深い考えもなくなんとなくそうしているように見える。
学生たちの本当の思惑がなんであれ、教師と学生を結ぶラインのうえに置かれた物体は、障害物として機能するだろう。すくなくとも潜在的なレベルでは。すくなくともわたしにとっては。
大多数の学生が無意識的に心理的な防壁を築こうとしているこの状況はいったい何なのだろう。
しかし正直に告白すれば、わたし自身、学生時代に同じことをやっていた気がする。もしかするとその起源は、小学校のときのルールのようなものだったのかもしれない。日本の学校の机の大きさや形状からすると、脇よりは前に置いたほうがスペースが取れるから、自然とそういう習慣が見につくのかもしれない。
わたしたちはパーソナルスペースを作る傾向にあるのだと言うこともできるだろう。矛盾するように聞こえるかもしれないが、ぼっちの子ほど、空気の鎧と盾を装備して、誰も寄せ付けないような雰囲気を持っている気がするし、友達未満知り合い以上の関係でで、席をひとつ空けて座るぐらいの間柄の場合、真ん中の空席には荷物が置かれる傾向にあるように思う。
教師とのコンタクトを避けたいということよりも、パーソナルスペースを作りたいという欲求が根底にあるのかもしれない。