うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

アメリカ観察記断章。アメリカの「百貨店」?

アメリカ観察記断章。アメリカに日本で言うところの「百貨店」があるのかと問われると、答えに窮する。ないわけではない。NordstromだとかMayc'sはたしかに「デパート」のようで、高級(志向)で年齢層が高めのメンズやレディースの洋服があり、化粧品があり、ちょっとした雑貨がある。しかしアメリカのこうした店舗を見るほどに、日本の百貨店の特殊性が浮かび上がってくる。1)食品から化粧品から洋服から日用品から食堂まですべてをひとつの建物でカバーしている店舗というのがアメリカにはない。少なくとも自分は見たことがない。食料品売り場ならともかく、食堂=レストラン街が付属しているというのはまずない。フードコートならあるけれど、昭和的百貨店の上階にあった「大衆食堂」というものはアメリカの文脈ではただひたすらに異質であるように感じる。2)日本のデパートがどちらかといえばコンパクトな空間にさまざまなものをおしゃれに詰めこんでいるとしたら、アメリカのデパートはとにかく一階の面積が広く、どこかまとまりのない印象を受ける。フロアが広いから一階にメンズとレディースの服飾が置かれているのだ。しかしこれを見るにつけても、なぜ日本の百貨店の一階はどこでもつねに化粧品売り場なのだという疑問がわいてくる。ある意味、日本の商業のほうがアメリカよりずっとジェンダー化されていると思う。その最たる例はレディースデーだろう。3)先にあげたNordstromやMayc'sはカリフォルニアのような郊外にあって、単体で現れることはまずない。つねにショッピングモールの一部として存在しているのだ。これは日本の百貨店が一軒で独立しているのと対照的だろう。4)だが、モールの一部であるがゆえに、ここでは微妙な競合が起こっているように見受けられる。日本の郊外型ショッピングモールにあって、店舗は基本的に客を互いに奪い合わないようにセレクトされていると思う。たしかに洋服店は複数入っていることが多いけれど、それは趣味の違いでうまく分散されているはずだ。ところがアメリカのモールだと、そういう調整はなされているようでなされていない。微妙なダブリがある。5)おそらくアメリカにおいて日本の百貨店にもっとも近いのは、その下位互換とでもいうべきターゲットだとかウォールマートのようなところだと思う。しかしそれは、日本のロードサイドビジネスに即して言えば、ホームセンターの上位互換である。日本のホームセンターが日用品や工具や園芸用品プラス食べ物という構成であるとしたら、ウォールマートはもっとジェネラル・ストアーよりだ。スーパー+ホームセンター+洋服売り場+電気屋+薬局というラインナップである。もちろん日本のモールにこうした組み合わせが存在しないわけではないし、事実、自分の実家そばのイオンはこうした形態をとっている(スーパー+薬局+服飾、道路を挟んだ向かいにホームセンター)。しかしそれはイオンによる直の経営ではなくあくまでテナント出店である。ところがウォールマートの場合すべてが同一資本による管理にゆだねられている。日本的百貨店が得意とする高級商品のレアさだとか網羅性についていえばアメリカは日本よりかなり遅れていると思うが、低価格帯の網羅性についていえばアメリカは日本をはるかにしのいでいるように思う。