うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「われわれ人間はふしぎな存在ですね。」(三島由紀夫「春の雪」)

「なぜなら、すべて神聖なものは夢や思ひ出と同じ要素から成立ち、時間や空間によつてわれわれと隔てられてゐるものが、現前してゐることの奇蹟だからです。しかもそれら三つは、いづれも手で触れることのできない点でも共通してゐます。手で触れることのできたものから、一歩遠ざかると、もうそれは神聖なものになり、奇蹟になり、ありえないようやうな美しいものになる。事物にはすべて神聖さが具はつてゐるのに、われわれの指が触れるから、それは汚濁になつてしまふ。われわれ人間はふしぎな存在ですね。指で触れるかぎりのものを潰し、しかも自分のなかには、神聖なものになりうる素質を持つてゐるんですから」(三島由紀夫「春の雪」57頁)