うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

喃語というユートピア(ダニエル・ヘラー=ローゼン『エコラリアス』)

「発音に関しては、幼児にはすべてが可能だとヤコブソンは断言している。幼児は人のあらゆる言語のどんな音をも例外なくやすやすと発声することができる . . . はたして、成人が話す諸言語は、かつてそこから生まれ出た限りなく変化に富んだ喃語のなにがしかを留めているのだろうか。あるとしたら、それは谺(こだま)でしかないだろう。というのも、言語があるところには、幼児の喃語はとうの昔に消え去ってしまっているからだ。少なくとも、まだ言葉を話せない幼児の唇がかつて発した形ではもう残されていない。それは、他の言語、あるいは言語でさえない何ものかの反響なのかもしれない。谺する言語(エコラリアス)は、自らが消滅することで言語の出現を可能にする言語にならない記憶の彼方の喃語の痕跡なのだ。」(ダニエル・ヘラー=ローゼン『エコラリアス』10、12頁)