うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

日本人であって自分のように英語をこなせるにんげん(小島信夫「アメリカン・スクール」)

「彼らがこうして辿りついたアメリカン・スクールは広大な敷地を持つ住宅地の中央に、南にガラス窓を大きくはって立っていた。敷地は畠をつぶしたのだ。アメリカ人にとっては贅沢なものとは云えないが、疎らに立ちならんだ住宅には、スタンドのついた寝室のありかまで手にとるようで、日本人のメイドが幼児の世話をしていた。参観者たちにはその日本人の小娘まで、まるで天国の住人のように思われる。ミチ子はそっと眼頭をおさえた。日本人であって自分のように英語をこなせるにんげんと此所に住んでいる米人とは教養の点ではおそらく遥かに自分の方が上である。それなのに、私はこの六粁の道を歩きながら、ここでハイ・ヒールをはくことをひそかに楽しんできた。この花園では私たちというにんげんが既にもう入りきれないほど貧しくなっているのだ。」(小島信夫アメリカン・スクール」)