うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

「あの全円の宇宙に、あの全体に、あの全一に」(三島由紀夫『暁の寺』)

「忌はしいもの、酩酊、死、狂気、病熱、破壊、……それらが人々をあれほど魅して、あれほど人々の魂を「外へ」連れ出したのは何事だらう。どうして人々の魂はそんなにまでして、安楽な暗い静かな棲家を捨てて、外へ飛び出さなくてはならなかつたのであらう。心はなぜそれほどまでに平静な停滞を忌むのであらう。/それは歴史の上に起つたことでもあり、個人の裡に起ることでもあつた。人々はさうでもしなければどうしてもあの全円の宇宙に、あの全体に、あの全一に指を触れることができないと感じたからにちがひない。酒に酔ひしれ、髪をふりみだし、自ら衣を引き裂き、性器も丸出しにして、口からは噛みしだく生肉の血をしたたらせながら、……さうまでして、人々は「全体」へ自分のほんの爪先でも引つかけたかつたのにちがひない。」(三島由紀夫暁の寺』117頁)