うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

オブラートという日本語

図書館の新刊本の棚にあった小菅陽子『ウィーン菓子図鑑』(誠文堂新光社、2022)をパラパラめくっていたら、リンツァートルテというお菓子は「生地とジャムが混ざらないように間にオブラートを挟んで焼きます」(17頁)とあった。「そんな変わったことをするんだな」と驚き、「そういえばオブラートって何で出来ているんだ」と気になってWikipediaを調べると、オブラートは「一般的にデンプンから作られる水に溶けやすい可食フィルム」となっていた。

語源的にはオランダ語の oblaat、ドイツ語の Oblate から来ている。しかし、明治期に日本に入ってきたものは「丸い小型のウエハースに似た聖餅(硬質オブラート)」で、これが現在あるような薄型フィルム(軟質オブラート)として製品化されたのは、20世紀初頭になるそうだ。Wikipediaから引用しよう。

1902年、現在の三重県玉城町に在住していた医師小林政太郎*1が柔らかいオブラートを製品化した(当時は「柔軟オブラート」と呼ばれた)。1910年の日英博覧会で金牌を受賞。初期の柔軟オブラートは柔軟剤を添加していたが、その後の1922年には乾燥機を用いた生成法が編み出され、柔軟剤が不要となり大量生産が可能になった。

というわけで、オブラートは世界的には日本語あつかいになるのかもしれない。すくなくとも、英語ではないのだろう。なにせ、OEDに oblaat は掲載されていないのだから。ドイツ語の綴りの Oblate は、別の意味としては掲載されているけれど、「オブラート」に類する意味のエントリーはない。現在最大規模の英和辞典といえるリーダーズにもランダムハウスにも、oblaat / Oblate は掲載していないようだ。Wikitionaryで引くと「オブラート」というカタカナ語を筆頭として立項されている。

コトバンクで検索しても、出てくるのは百科事典や国語辞典のエントリーで、外国語辞書は引っかからない。

*1:小林政太郎については、三重県のホームページのなかにあったこのページが詳しい。

www.bunka.pref.mie.lg.jp