うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

すべて洗い落とす(笈田ヨシ『見えない俳優』)

「しかし過去の遺産を現代に再現するのではなく、何かを未来に向けて新しく作っていく、それが僕の演劇を始めた理由でした。ブルックとの仕事で「今日の舞台は良くできた。明日はどうする」と言われて、今日良かったなら明日もその様にしたいけれども、他の新しい演技を探せと言う。こんな事の繰り返しで、頼りどころもなく、行く先もわからず漂い続けた何十年もの海外生活。ブルックの忠告に従って努力して来た事と言えば、いままで持っていた物をすべて洗い落とす事でした。日本人である事、男である事、俳優である事、全てを捨てた後に何が残るのか。恐らくは何も残っていないであろう自分の中から、何が作れるのか。それは不安でもあるけれども、ついにはその頼りない努力を続ける事に、ある種の快感さえ覚えるようになって来ました。自分が次に何処へ行くのか、その好奇心が未だに演劇を続けている理由です。」(笈田ヨシ『見えない俳優』63‐64頁)