20191223 Day 1 エジプト考古学博物館。
朝一で行くと、かなりの行列が出来ている。団体客が来ているのと、かなりザルなのに2度もあるセキュリティチェックのせいだろうと思う。
入場料は200エジプトポンド(だいたい7倍すると日本円に換算できる)で、意外と高い。そして王家のミイラをみるには、これにさらに180ポンド上乗せ。エジプト人と非エジプト人で価格体系が違うのも面白いし、かなりの格差がある。それだけ観光客から取っているとも言えるし、エジプト人には安く公開しているとも言える。
博物館のなかは驚くほど雑然としている。いまあらたな博物館を建造中らしく、閲覧物を運び出したりしている最中だからというのもあるのだろうけれど、あちこちで壁の工事をしていたり、ブツを運び出す作業をしていたりと、かなり落ち着かない様子があるけれど、ここの展示の仕方がそもそもそういう感じだったのかもしれないという気はした。
ざっくりと印象をまとめると、小中学校の理科室準備室の雰囲気。ガラスケースに入ったおどろおどろしい物体に、黄ばんだ紙に色合わせたインクの説明カードがついている感じ。詳しい説明パネルがあるところもあれば、ほとんど何もないところもある。予備知識なり、ガイドブックなりがなければ、展示されている物が何なのかを理解することすら難しい部分がある。
チケットを買うのを待っているあいだに、ガイドはいらないかという客引きにあったのをすげなく断ったけれど、中に入ってみると、そのガイド業がアングラ的な一大産業をなしていたことに気づく。とにかく多言語で、内容もかなり濃い。英語とアラビア語は当然として、こちらが気づいただけでも、フランス、ドイツ、スペインはあったし、たぶんヒンドゥーあたりもあったと思う。驚くべきは中国語だ。もちろんすべてここの現地の人がやっているから、彼ら(気づいたかぎりではガイドはほぼ男性の職だ、ひとり女性がのガイドらしい人を見かけた気もするが)は、これらの言葉を習い覚えたに違いないのだけれど、それがびっくりするほど流暢である。もちろん商売道具だからというのは当然だけれど、それをここまで鍛え上げた修練のことを思うと、ただただ驚くばかりだ。
展示方法は独特。順路がよくわからないし、年代順にざっくりと置いてあるだけなので、エジプトの歴史に精通していないとわかりにくい。というか、表示がすべて「X Dynasty」 としかなっていないのだ。「誰々王」ですらなく、ローマ数字で「X(何代目)」と書いてあるだけなのだ。これは、エジプト史を大学受験のときにやったきりの身には、かなりつらい。日本で例えれば、奈良平安といったざっくりした区分で部屋が区切られていて、それぞれの展示物については「X代天皇」と書いてあるだけ、と言えばいいだろうか。
生のガイドが成り立つのは、音声ガイドのようなものがあまり充実していなかったり、各国語のパンフレットがないという事情によるのだろうとは思う。
エジプトの工芸品は、きわめて細かいのに、洗練されてはいない。線が歪んでいたり、形がそろっていなかったり、これはイスラム芸術の数学的な正確さとはまったく別物の世界だ。もしかすると日本のわびさび的なもの、織部焼の歪みに近いのだろうかという気もした。よく見ると、とぼけた表情のものがいろいろある。
エジプトは、パピルスに描かれているような平面的な画で知られていると思っていたけれど、立体に秀でている。彫刻はおどろくほど写実的であるし、顔がひとつひとつ違う。王族のものは当然としても、そうではない人びとのものについても、明らかに顔が違っている。
ここまで3次元的な写実的正確さを達成できる人びとが、平面になると立体性をあえて踏みにじり、工芸品になると微妙ないびつさを残すものを作り続けていたというのは、なにか深い矛盾を感じるのだが、これについてはもうすこし考えてみたいと思う。
見どころは2階にあるツタンカーメンのマスクや副葬品なのだろうが、すでにここらへんにくるまでで疲れ切っていた。
2-3時間くらいはいたと思うし、じっくり見ればそれでもまだ足りない感じはした。ツアー客か家族客が大半で、ソロ旅行者は少ない気がした。ここは各国旅行者に人気であるばかりか、修学旅行的なところの順路であるのかもしれない。白い長衣を着て白い帽子をかぶった10代の男子たちが団体客でいた。本当に国際色豊かな場所ではあった。